戦い
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「枕ともう1つ?」
「・・・・・・あなたに嫌われても、もう隠し事はしない、嘘はつかないと決めたから話します。
以前あなたを裏切っていた時に、あなたとセックスをするなと言われ、それは出来ないと言って逆らった時に・・・・・その様な事を・・・・・・・・。」
「焦らされて、枕で達したのか?それも、野田に見られながら?」
「・・・・・・はい・・・ごめんなさい。
でも、その後言った事は嘘です。その事を思い出して、従ったのでは有りません。
脅されていたから・・・・・・仕方なく・・・・・・本当です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・もう1つは?」
「・・・・・・・・・・私、濡らしてしまいました。早く終わって欲しい、夢なら醒めて欲しいと思っていても、濡れて来るんです。
こんな時になぜ?感じてなんかいないのになぜ?と思っていても、濡れて来てしまうんです。
ごめんなさい。ごめんなさい。
嫌で、嫌で、興奮なんかしていないのに・・・・・私・・・・・・。」
妻は、感じていなかったと思っていますが、ただ濡れてくる事は有り得ません。
自分を否定しているだけで、その様な自分では無いと思いたいだけで、おそらく感じてしまっていたのでしょう。
私だけの妻を野田に見られたと知った時も、妻が私と野田の両方が好きだと思っていた時も、心のどこかに
“野田に何が分かる、野田は口先だけで、妻を1番理解しているのは俺だ。”
という自負が有りました。
“妻と俺には歴史が有る。セックス意外、野田と妻に何が有る。”
と思っていました。
私には出来なかったセックスをされ、私では与える事の出来なかった快感を、野田に教え込まれたと知った時も
“夫婦では、したいと思っても出来ないだけで、浮気だからこそ出来ただけだ。”
と自分に言い聞かせていました。
これらは全て、妻を寝取られた男の、負け惜しみなのかも知れません。
しかし、そうでも思わないと、妻と前には進めませんでした。
妻の話を聞き、当然 怒りも有りましたが、それよりも、性行為に関しては、野田の方が妻の本性を見抜いている様で、妻さえも気付かない妻の姿を知っている様で、無性に寂しさを感じました。
その様な事を考えながら 妻の顔を見ていると、若かった頃を思い出します。
妻と初めて結ばれてから、しばらくの間会うのを断られました。
私は嫌われたと思っていたのですが、そうでは無く、恥ずかしくて顔を合わす事が出来なかった様です。
結婚してからも、妻から誘われた事は無く、あまりセックスは好きでは無いと思っていました。
40歳を過ぎてからは、いざ始まると、何回も求める事も有り、少しは積極的になりましたが、それでも妻から誘われた事は有りません。
不倫するまでは、一緒にお風呂に入っても、明るいから恥ずかしいと言って、必ずタオルで隠して入って来ました。
私はずっと、それが妻だと思っていました。
妻は、いつまでも、恥じらいを忘れない女だと思っていました。妻自身も そう思っていたと思います。
それが野田の手によって変えられていった。
いえ、本来の妻を引き出されていったと言う方が、正しいかも知れません。
その事は、身体の関係を持たれたのと、同じぐらい悲しく寂しい事でした。
妻の涙を見ながら、その様な事を考えていましたが、野田に その様な性癖が有るとすれば、これで済んだとは思えず。
「その他にも、知らない男の前で何かされなかったか?外で恥ずかしい事をさせられなかったか?」
「いいえ。それは無かったけれど、隣の彼にはその後2回、同じような事を・・・・・・。」
「エスカレートしなかったのか?触られたり、それ以上の事をされなかったか?」
「いいえ。同じ様に恥ずかしい下着姿で、お酌をさせられたり、色々なポーズをとらされたりしましたが、それ以上は、課長が断っていました。」
裸同然の格好をさせ、恥ずかしいポーズをとらせて、ビールを呑みながら、指を刺して冷やかし、笑っている2人の姿が目に浮かびました。
泣きながら惨めな格好で、2人の男の機嫌をとっている、妻の姿が目に浮かびました。
私だけの妻の身体を、妻の恥ずかしい姿を、野田だけでも許せないのに、何回も 見ず知らずの男に見せたか思うと、怒りで胸が苦しくなります。
その時の妻の姿を想像すると、胸が張り裂けそうになります。
妻を自分の物の様に扱い、同性の仲居さんでも許せないのに、他の男の前で辱めたと思うと、いくら感じていたとは言っても、妻が惨めに思え、野田に対しての怒りが、私の中で限界を超えてしまいました。
例え嘘をついているのが妻だとしても、もう法的な制裁だけで済ませる気は有りません。
まだ、どういう方法が有るのか分かりませんが、慰謝料を貰って済ませるような事は、絶対にしないと心に誓いました。
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5月15日(土)の1
今日は、早い時間に、自宅に帰るつもりでいましたが、家に着いたのは、午後の4時でした。
昨夜は あれから、妻を可哀想に思ってしまい、両手でしっかり抱いてやって眠りました。
当然 その様な事をするつもりは無かったのですが、妻を抱いているだけで、何故か私の物は元気になってしまい、気が付くと妻を裸にしていました。
妻の話を聞いて怒りを覚えながらも、知らない内に興奮していた?いいえ、その様な事が ある筈が有りません。今考えても、怒りで手が震えてきます。
しかし、妻も いつに無く激しく乱れ、結局 寝るのが遅くなり、寝過ごしてしまったのです。
今日帰って来たのには目的が有ります。
野田の他に、もう一人許せない男が出来たからです。
野田との問題の前に、まずは、この男を何とかしようと思い、会ってみたくなったのです。
家に着くとすぐに、妻を残して野田のアパートに向かいました。
勿論、野田に会うためでは有りません。
駐車場には野田の車以外1台も無く、留守かと思いましたが、一応 部屋まで行ってインターホンを鳴らすと、やはり返事は有りません。
アポを取って有った訳ではないので、留守でも仕方ないのですが、この時の私は苛付いていて、彼が留守だった事に腹が立ち、隣の部屋に行ってしまいました。
「やあ、あれから連絡もせずに申し訳ない。慰謝料の事だが・・。」
その瞬間、私は野田の顔を殴ってしまいました。
野田は倒れずに、頬を押さえながら1歩近付いて来て。
「気が済んだか?1発は仕方ないが、これ以上・・。」
言い終わらない内に、今度は鳩尾を殴っていました。野田は一瞬 息が出来なかったのか、呻き声を上げて蹲り、私は一言も話さず、力任せにドアを閉めて車に戻りました。
暴力では解決出来ない事は分かっています。しかし、殴らずにはいられませんでした。
1時間ほど近くの喫茶店で時間を潰し、もう一度アパートに行くと、今度は野田の車の他に2台車が止めて有ります。
彼は、車を持っているのかさえ知りませんでしたが、帰っている様な気がして、部屋に行ったのですが、彼は まだ留守でした。
すると、また腹が立ち、野田の部屋へ行ってドアを何回も叩いていると、鍵は、開けてくれたのですが、ドアを開けても野田の姿は有りません。
すると奥から。
「もう暴力は御免だ。流石の私も、今度したら警察を呼ぶ。」
私が上がって行くと、野田は部屋の隅に立っています。
私は、ソファーに座り、気を落着け様と、目に前に置いてあったタバコを、無断で1本出すと火を点けました。
最近止めていたので、久し振りのタバコは美味く、フィルターの近くまで吸ってしまい、火を消すのにガラスで出来た、大きな灰皿にタバコを擦り付けていると、
ふと、これで野田を殴りたい衝動に駆られ、灰皿を持つと野田の方を向いて、頭の上に振りかざしましたが、野田の怯えた目を見て我に返り、テレビに向かって投げ付けました。
幸いテレビには当たりませんでしたが、隣にある趣味の悪い洋酒棚に当たり、静かな部屋にガラスの割れる音が響きました。
結局この時も、一言も話さないで部屋を出ましたが、話す事が無かった訳ではありません。
話せば声が裏返ってしまいそうで、声を出せなかったのです。
一旦家に帰ると、私が何処で、何をしてきたのか分からず、心配そうな妻に。
「野田の隣の部屋の奴について、知っている事が有ったら教えろ。どんな小さな事でもいい。」
「はい。彼は△△商事に勤めているらしいです。
一度、仕事帰りの彼に、部屋の外で会ってしまい、冷やかされました。
その時、△△商事と印刷された大きな封筒を持っていました。
課長が、一流企業に勤めていると言っていたし、間違い無いと思います。・・・でも、どうして?」
「お前は知らなくてもいい。他には?」
「6月の13日に○○ホテルで、結婚式を挙げるらしいです。」
「もうすぐじゃないか。あいつ、その様な時期に・・・・・・。美鈴は どうやってその事を知った?」
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「はい。3回目に彼が来た時、課長が結婚祝いだと言って、エッチな下着をプレゼントしていました。
彼は、“真面目なお嬢さんなので、こんなのを穿いてくれと言ったら、結婚してすぐに離婚になってしまいます。”と笑いながら断っていました。
その時の2人の会話を聞いていて・・・・。」
私は、彼が留守で良かったと思いました。あの時いたら、たぶん殴って終わりだったでしょう。
どの様な奴かも分からないので、今頃、警察沙汰になっていたか、または、若い彼の方が強く、逆に殴られて、より悔しい思いをしていたかも知れません。
その時、頭に浮かんだ、警察沙汰という言葉で野田の事を思い出し、今頃、暴行と器物破損で被害届けを出していないか、少し心配になっている、気の弱い自分に気付きました。
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5月15日(土)の2
妻は口、数の少ない私に、腫れ物にでも触る様に接していましたが、私が出掛けようとすると。
「あなた、今頃、何処へ行くの?お願いだから一緒にいてください。私が悪かったです。ごめんなさい。何処にも行かないで。」
私が、何かするのでは無いかと思って、心配しているのは分かりますが、今の私には優しい言葉を掛ける余裕は有りません。
「お前の様に、浮気しに行く訳では無いから心配するな。」
そう言われると妻は何も言えません。
アパートに着くと、野田の部屋にも隣の部屋にも、明かりが点いていました。
インターホンを押すと、ようやく彼が出たので、
「美鈴の亭主だが、妻が大変世話になったそうなので、お礼を言いに来た。ドアを開けてくれ。」
彼は、上擦った声で、
「僕は何もしていない。関係ない。帰ってくれ。」
「何もしていなかったら、開けてくれてもいいだろ?とにかく、ここを開けろ。そうか、まあいい。それなら月曜日に、△△商事にお邪魔する。遅くに悪かったな。」
そう言うと、慌ててドアを開けてくれた彼は、メガネを掛け、いかにも一流企業のエリートサラリーマンといった風情でした。
玄関先で話そうとする彼を無視して、土足のまま上がって行くと、テーブルの上に座り、
「妻が、色々世話になったそうで、どうしても会ってお礼がしたくてな。
すぐにお礼をしようと思ったのだが、その高そうな眼鏡が割れると困るだろ?メガネを外してくれ。」
「どうして僕が、そんな事をされなくてはいけない?もう帰ってくれ。警察を呼ぶぞ。」
彼は、電話の所まで行き、受話器に手を掛けましたが、その時、口では強がっていても、手が震えているのが分かりました。
「早く警察に電話しろ。警察に来てもらって何と言う?
他所の奥さんに恥ずかしい事を3日もさせたら、旦那が押し掛けて来て困っている、とでも言うのか?早く電話しろ。」
彼は、受話器から手を放し、私を必死に睨み付けていました。
「そうだな。俺も興奮しすぎた。ここへ来たり会社に押し掛けては、脅迫と言われても仕方が無い。きちんと弁護士を連れて来るから、またその時に話をしよう。」
「弁護士?僕は何もしていない。
ただ隣に行ったら、あんたの奥さんがHな格好でいただけだ。
指1本触れていないから慰謝料も発生しない。
脅して無理にさせた訳でも無いから、強制猥褻も当て嵌まらない。
どういう理由で弁護士と会わなければならないか、教えて欲しい。」
「流石エリート。若いのに何でも知っているな。俺もお前を、何の罪に出来るか分からん。
罪に出来たとしても、お前は何も知らずにしていたのだから、民事かも知れない。
ただ、女房を笑い者にされて黙っていられるか?
まあ、ここで話していても仕方がない。
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