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僕とオタと姫様の物語
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618 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/03(日) 16:34:16
6日目の朝。遅い時間。


姫様に揺り起こされて目覚めた。

最後の日だっていうのに、体がさっぱりいうことを聞いてくれなかった。

熱は いくらか治まってたけど眠くてしかたなかった。

彼女がコンビニで買ってきてくれたスープとパンを時間をかけて食べお礼を言って、彼女には もう帰るよう勧めた。


楽しかった新年の数日。もう充分だ。

これ以上引きとめても可哀想だし。

午後も眠って過ごしてしまうだろうし。

彼女は何も言わなかった。


ぼくの手からパンの包みをとって捨ててくれ、飲みきれなかったスープを引き受けてくれた。


それから彼女は裸になってベッドへ滑るように潜りこんできた。

ひんやりとした彼女の肌。シーツの衣擦れの音。

長い髪が、かわいいおっぱいに垂れてふんわり揺れる。

寝てないから、寝る。と彼女は言った。


午後から雨が降りはじめた。

ホテルの部屋は もの音ひとつなくて 午後の美術室みたいな冷たい静けさがあった。

サイドテーブルの上の時計の振り子がモーターの入ったガラスドームのなかで くるくる回転している。

午後1時を過ぎた頃に、彼女の寝息を聞いた。

ぼくの記憶は そこで途切れていた。



後に残ったのは浅い眠りの中で見た夢。

いまとなってはどうでもいい、アジアのどこかの街並みと一枚のフロッピィディスク。



619 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/03(日) 16:35:37
暗い部屋の中で また目覚めたとき 彼女はもういなかった。


クロゼットからも、バスルームからも彼女が ここにいた痕跡すらすべて消え失せていた。

シンクの回りにまき散らされた化粧品もベッド脇にあった紙袋の山も一切合切が突然この部屋から切り取られて魔法のように消失した。


電源が投入されて待機画面になったままのノートPC。

サイドテーブルにあった一枚のメモ。

ぼくはふらつきながら、トイレへ立ち、そのあとで冷蔵庫からペリエを取りだしてがぶ飲みした。

焦って飲んだせいで鼻に逆流して、止まらない咳になった。

日が落ちてから熱が体の内側から再び沸き起こり燃えるように熱かった。

体がひどくだるく、鉄みたいに重く、関節がぎしぎしときしむようだった。

ライトのボリュームに手を伸ばして なんとかねじることができた。

メモにに残された筆跡は達筆で、こう書かれていた。


 また熱が出るのかな。

 ちょっと心配です。

 だからクマを置いていきます。

 クマがヒロを見張っています。

 このクマは わたしの命より大切です。

 だから またわたしに電話して 必ずわたしのバッグに戻してください。 


 p.s.

 ヒロの大切なお友達に連絡しておきました。

 遅くならない時間に迎えにきてくれるはずです。

 それまでベッドを出ないように。

 おっけい?わかった?


 恵子



620 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/03(日) 16:37:36
姫様はアドリブがきく。

彼女のあどけない仕草とか細くて色っぽい声とか綺麗な顔立ちに誤魔化されて肝心なことを忘れていた。

頭のいいこなんだ。

姫様は。



部屋の電話が鳴り、フロントから来客を告げられた。

午後10時をまわったあたり。

部屋にオタが入ってきたとき、ぼくは床に座りこんで鼻水を垂らしていた。拭き取る気力もなかった。

「面倒かけやがって」

オタは入ってくるなりそう言った。

でも言葉ほど刺は感じられなかった。



ぼくはわけが分からずにオタにごめんと、なんども謝った。

オタは外に出るのが嫌いなんだ。ところが ここまではるばるやって来てくれた。ぼくのために。

オタは車を持っているヒキだ。

廃車寸前の四駆。


ぼくはその助手席に収まって鼻水を垂らし続けた。

車がウインカーを点滅させて どこかの交差点を曲がったときオタはこう言った。


「前言撤回だ。おまえの嬢様はできがいい。

できのいい女は おまえにはもったいない。

だからもう手を出すな。

ホテルの精算も済んでた。

送られて来たメールは丁寧で簡潔で、二重敬語もなかった。」


だから きれいさっぱり忘れろと言った。

おまえの手には おえない、と言った。

それから、ぼくは泣き出した。声に出して。

ほんとにごめんな。オタ。

愛してるよ。心底。


車が自宅に到着する前にぼくは嘔吐してゲロった。

四駆のシートに派手にまき散らした。

ところがオタは窓を開けただけで、何も言わなかった。



ぼくの手に握られたピンクのクマ。

鼻に近づけると かすかにミツコの香りがする。

姫様は、このクマがぼくを見張っているといった。

でも、それは違う。ぼくが このクマなんだ。

君のところへ帰りたくて胸が張り裂けそうだ。

ぼくは いつだって一秒たりとも間隔を開けずに君のことを考えている。

君の胸こそが ぼくのいるべき場所なんだ。



674 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/10/04(月) 23:20:35
7日朝。

重く辛い。

自室のベッドから這い出ることができたのは奇跡的だった。

また いつものように白いシャツに手をとおして、ネクタイを締める毎日のはじまり。体温計を見ると39度ちょい。最悪のスタートだ。

家でもめるのは勘弁だったから、何事もないように玄関を開け見慣れた商店街を抜け、駅へと向かう。

すれちがう女子高生の群れ。姫様といくらも違わない年の女の子たち。

ほんのちょっと人生のネジの調整が狂っただけで あの女子高生たちのようには笑うことのできなくなった姫様。


ぼくはポケットの小銭を自販機に投げ入れて、てきとうなボタンを小突く。出てくるのは お決まりの、どれを選んでも大差ない味の缶コーヒー。


ぼくは ひょんなことから、ふつうとは違う、スペシャルな女の子に出会った。

名はリカであり、恵子であり、姫様。

かつ、そのどれとも違うぼくの見知らぬ女性。


ときどき踏切の遮断機が閉じられ、車輪のついたでかい鉄の箱がいくつも とおり過ぎてゆく。

都心へ向かう人間専用コンテナ。その毎日の旅路は合計すると、きっと月よりも遠い。

ぼくは その旅路の途中で姫様を見つけた。

姫様は線路の脇を徒歩ですすむ難民だった。

色褪せたぬいぐるみが唯一の連れ。

小石につまずいただけで、終わってしまいそうな危なげな旅。


その連れは いまぼくの黒皮の四角い鞄の中にいて、持ち主の暖かい手のひらへ帰ることを切望している。

自分の居場所は姫様の ごちゃごちゃのバッグの中だと確信している。

昨夜、忽然と消えていなくなった姫様。

なんでぼくの手元にクマを残したんだろうな。

漠然とした考えが浮かんでは消えるけど、熱に溶けて頭からこぼれ落ちる。


そのうち電車がホームに滑りこんできて、ぼくは女子高生といっしょに押しこまれる。

軽量ステンレスとポリカーボネイトの無機質な筒。その内側では、ぼくは自分のふりをしながら呼吸する別の何かだ。

ネクタイモードに きっちり合わせることができる自分を、ぼくは誇らしく思ってるけどオタの冷ややかな視線を堂々と受け止めることができない。

ひょっとすると、憐れんでもらうのは ぼくの方なのかもな。

変化を嫌って生きてきたぼく。

置き去りにされたとき、ぼくはクマを握ったまま泣くことしかできなかった。


あの夏の姫様のように。

あの冬、弟に置き去りにされた姫様のように。





>>次のページへ続く
 
 


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