僕とオタと姫様の物語
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262 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/09(土) 23:32:45
クリスマスイブの夜。
ぼくはデートクラブの女の子を買ったことがある。
Hはなしっていう条件だったけど ふたりとも一瞬で意気投合して、ぼくらは不文律の一線を あっさり飛び越えた。
姫様がなぜ ぼくなんかを気に入ったのか
いまとなっては もうわからないけど
数時間後には ぼくらはホテルの部屋にいるほどの仲になった。
映画を見た後で姫様は ぼくに一枚のカードをくれた。
名詞っていうより電話番号とアドレスが書かれただけのインフォメーションカード。
薄っぺらい淡いカーキ色のマーメイド紙。
コピー機に手差しで突っこんだ手製で爪の先で黒い文字をひっかくとトナーが粉になって剥がれ落ちる。
このカードは ぼくの財布のカードホルダに刺さったままになってた。
完全に忘れてしまってた。
すぐにカードに書かれた番号に電話してみたけど呼び出し音に ときどき空電が混ざるだけ。
誰も出ることはなかった。
日をあらためても結果は同じ。
263 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/09(土) 23:33:32
どこかおかしい。
カードには店の名も書かれていない。
ぼくは姫様の正体を突きとめたいわけじゃなかった。でも姫様の痕跡を追っていないと落ち着けなかった。
姫様は会いたくなったら ここに電話してと言った。
これが店の名詞だと勝手に思いこんでたのは ぼくのほうじゃないのか。
どこかで稼働し続ける姫様のフロッピィ専用のPC。そいつと同じで姫様もスタンドアロンじゃないのか。
でもさ。ここでぼくの推理はいつも頓挫する。
姫様はリッチなのに なんで ぼくなんかと遊んでるんだろう。オタは姫様が金持ちかどうかなんて、ほんとのところは分からないと言った。
姫様の影。
その世界の信用に成り立ってるのなら その金は無いも同然かもしれないと言った。
・
今日書いてるときに流れていた曲
ホワイトストライプス/White Stripes 「white blood cells」
クリスマスイブの夜。
ぼくはデートクラブの女の子を買ったことがある。
Hはなしっていう条件だったけど ふたりとも一瞬で意気投合して、ぼくらは不文律の一線を あっさり飛び越えた。
姫様がなぜ ぼくなんかを気に入ったのか
いまとなっては もうわからないけど
数時間後には ぼくらはホテルの部屋にいるほどの仲になった。
映画を見た後で姫様は ぼくに一枚のカードをくれた。
名詞っていうより電話番号とアドレスが書かれただけのインフォメーションカード。
薄っぺらい淡いカーキ色のマーメイド紙。
コピー機に手差しで突っこんだ手製で爪の先で黒い文字をひっかくとトナーが粉になって剥がれ落ちる。
このカードは ぼくの財布のカードホルダに刺さったままになってた。
完全に忘れてしまってた。
すぐにカードに書かれた番号に電話してみたけど呼び出し音に ときどき空電が混ざるだけ。
誰も出ることはなかった。
日をあらためても結果は同じ。
263 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/09(土) 23:33:32
どこかおかしい。
カードには店の名も書かれていない。
ぼくは姫様の正体を突きとめたいわけじゃなかった。でも姫様の痕跡を追っていないと落ち着けなかった。
姫様は会いたくなったら ここに電話してと言った。
これが店の名詞だと勝手に思いこんでたのは ぼくのほうじゃないのか。
どこかで稼働し続ける姫様のフロッピィ専用のPC。そいつと同じで姫様もスタンドアロンじゃないのか。
でもさ。ここでぼくの推理はいつも頓挫する。
姫様はリッチなのに なんで ぼくなんかと遊んでるんだろう。オタは姫様が金持ちかどうかなんて、ほんとのところは分からないと言った。
姫様の影。
その世界の信用に成り立ってるのなら その金は無いも同然かもしれないと言った。
・
今日書いてるときに流れていた曲
ホワイトストライプス/White Stripes 「white blood cells」
306 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/10(日) 23:10:51
ベッドに横になってると思い出すのは あのチャットルームだった。
音楽系のBBSとチャットで構成された かなりいいかげんな、どこかのクラブサイト。
なにげにふらっと立ち寄って、すぐに出て行くつもりが どうしたことか そこに明け方まで滞在することになった。
何人かの女の子と雑談して、馬鹿馬鹿しくなり出ていこうとしたとき、ぼくは風変わりなハンドルネームを見つけた。
名は「窒息しそう」
メッセージは「ふつーにお喋りしてくれるひと希望」
たったそれだけの文字が みょうにひっかかって、ぼくはログインした。
他の書きこみは かなり過激で「今夜いっしょにいてくれる男の子」とか あからさまに一夜の値段を表示してるものまであったと思う。
後で聞いた話によると、そこは風俗嬢が待ち合わせに使うサイトだったらしい。
クラブ主催に見せかけたのはパトロールの目を欺くためか。
いや、クラブ主催はほんとうかもしれないけど そこの常連は風俗嬢とそのチラシ的な文字の羅列。
ぼくは知らずに そこへ迷いこんだ。
307 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/10(日) 23:11:44
そこで見つけたのは 渋谷のネオンサインが遠のいて消えてしまうほど綺麗なお姫様だった。
無料だったし、三時間くらい話こんだかな。
気づいたら明るくなりはじめてて、バイバイする直前に ぼくらはクリスマスイブにデートの約束をした。もちろん有料で。
姫様が捨てアドに画像を送信してきたとき、ぼくは目を疑った。
嬉しいというより、からかわれたという失意に沈んだ。
会えないのかもな。
当日ぼくは のこのこ出かけて行き、そして姫様を見つけて驚喜した。有料なんだぞ、と自分に言い聞かせた。指一本触れられないんだぞ、と。
でも高揚した気分は そんなことじゃ おさまらなかった。
テレクラの約束の成功率は2割にも満たないと聞いたことがある。
会った相手に満足したかってことになるとこの数字は さらに急カーブを描いて低くなるんだろうな。
この数字が正確だとすると、ぼくは奇跡に遭遇したことになる。
308 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/10(日) 23:12:26
仕事で打ち合わせがハネたあと会社に戻る前に ひとりでスターバックスに寄って それからHMVとかタワーレコードを冷やかしにいく。
学生の頃は中古CD屋で粘って月50枚近く買いこむこともあった。
何年か そんなことを繰り返すと月に何百枚買おうが、1枚だけだろうが好きになる曲の絶対量に変化がないことに気づいた。
働きはじめると、ぼくのうろつく場所はタワーレコードなんかの大型店舗に限られるようになった。
欲しい新譜は発売日から数日以内に買ってたから冷やかしに行くっていうのは ほんとだ。そんなときは買うことなんて滅多にない。
ぼくの部屋のCDの量は日に日に膨張する傾向にある。買いこむ速度よりも早く。
309 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/10(日) 23:13:41
ベッドの下やクロゼットや押し入れは本来入っていて当然のものが入っていない。
そこには、もう絶対に聴くことのないCDが整理されずに詰めこまれている。
今夜も その廃棄処分決定済みのCDの山の中から一枚を選んで再生する。買った記憶すらない一枚。はじめて聴く音。
そうやって何夜過ごしただろうな。
姫様の声を間近に聞いていたことが現実的じゃなくなって あの肌の感触とか、髪の毛の匂いとか そういう欠片を思い出すのが難しくなってきた頃 姫様はぼくに電話をよこした。
場所は空港のカフェ。
背景音はなく、おそろしく静かで姫様の声に はっきりと輪郭があって ぼくはCDの再生をストップした。
「会いたいよ。ヒロ。いますぐ会いたいよ」
310 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/10(日) 23:14:51
大急ぎで着替えて家を飛び出した。
飛行機の到着時間から考えても姫様が連絡をよこした時間は かなり遅かった。
質問はしない約束だし、不可解な行動はいまに始まったことじゃない。
ただ顔が見たかった。
待ち合わせ場所は恵比寿。
今夜は ゆっくりしたいからホテルを予約してあると言った。
最初に姫様の口からそのホテルの名を聞いたとき自分の耳を疑った。どこかの公園かオープンカフェの名かと勘違いした。
超高級ホテル。遠くから見たことしかない。
普段は滅多に着ることのない、それっぽいスーツを引っ張りだしクリーニングから戻ってきて そのままになってたシャツを着て ぼくは駅へと走った。
駅前の商店街は賑やかで いつもたぶん このくらい賑やかなんだろうけど ぼくの目には鮮やかに彩色されてより鮮明に見えた。
露店のホロに下がったハロゲンランプ。
呼びこみのおっさんの声。
チャリの長い列と生鮮食材の臭い。
ホームで電車を待つ時間がもどかしかった。
急げ。
・
今日書いてるときに流れていた曲
ホワイトストライプス/White Stripes 「white blood cells」
358 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/11(月) 16:54:11
ホテルに到着してフロントで名を告げると なんだかやたら それっぽい金属にルームナンバーの刻まれたタグ付きのキーを渡された。
先に部屋で待っててほしいということだったけどフロントのピカピカの黒の大理石の床を横切って入り口が見渡せるロビーのソファに腰を下ろした。
一時間近く待ったかな。
フロントに近づく見慣れた人影。
想像してたよりも手荷物は少ない。
銀色の髪留めが後ろ頭にくっついてた。
ぼくはすっと立ち上がってエレベータホールに向かう彼女のあとを追った。
まったく気づいていない。
エレベータが到着して乗りこむとき、ぼくは彼女の視界を避けて背後にまわりこんだ。
目的のフロアのボタンを押す彼女。広いエレベータの中は ぼくらだけだった。
「おかえり」とぼくは言った。
静かな恐怖に襲われて反射的に正面のドアにぶつかる彼女。
くるっと後ろをふり返ったとき目が合った。
その瞬間 彼女の顔がほころんで、それから涙ぐんだような表情に変わった。
ぼくの首に腕を回す彼女。
彼女が泣きそうになっているのは再会できた喜びからだと思ってた。
彼女は ぼくにしがみついてこう言った。
「カナが帰ってこないよ」
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