幼なじみとの馴れ初め
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他の3人については知る由もないが、ま、どうでもいい。
卒業式の日、「お祝いしたい」と言う陽子に呼ばれ、俺は陽子の家に向った。
テーブルには、陽子お手製のオムライスとサラダが。
陽子以外には、家族は誰もおらず・・・
「もしかしたら?」
そう言う思いも、あるにはあった。
食事が済み、陽子の部屋でしばし雑談。
雰囲気が良くなって、キスするまではいつも通り。
でも相変わらず、それより先には進もうと思わない俺。
「抱いてほしいよ」
煮え切らない俺に陽子が、いよいよ業を煮やしたか・・・
「ちゃんと責任取れるようになってから・・・ねっ?」
そんな言葉すら、陽子を傷付けていた。
「好きだから・・・抱いてほしいんです!」
俺に覆い被さり、唇に吸い付く陽子。
やがて俺のベルトに手を伸ばし・・・
「陽子ちゃん、そんな事しないで・・・」
思わず俺は、そう言ってしまった。
「どうしてですか?」
目に涙をいっぱい溜め、陽子は俺に尋ねた。
「だから・・・ちゃんと責任取れるようにな」
「ウソっ!」
「俊也さん、あの事・・・あの日の事を気にしてます!」
「えっ?」
「あたしの事、不潔だとか・・・汚いとか思ってるでしょ?」
「あの日の事、絶対に引きずってます!」
「そんな事ないよ」
「じゃ、どうして・・・」
陽子は声を上げて泣き出した。
「あの日、あの男達は・・・あたしの体に触る前から・・・」
「でも俊也さん、全然反応しない」
「キスしてもそう。さっきあたしが上に乗ったのに・・・」
「男の人って、『したいもんだ』って聞きました。」
「でも俊也さん、あたしを全然求めない。」
「『責任取れるまで』って言うなら、避妊してもいいじゃないですか?」
「なのに俊也さん・・・触れようとしない・・・」
「帰って!」
そう言われ、家から追い出された俺。
暫く玄関先に留まったが、中に入れてくれる様子もない。
俺は仕方なく、重い足取りで家路についた。
陽子の言葉は遠からず、的を得ていた。
「不潔」とか「汚い」とかは思ってない。
思ってはいないが、「あの日」の事を意識しない訳じゃない。
今付き合ってる事も、俺なりの「あの日」の償いだったから。
でももしかしたら俺・・・
陽子に言われて気付いた事があって、
「陽子にかなり失礼な事をしたんじゃないか?」って事。
好きでもないのに、ただ償いの為に付き合いだした事は、優しさではなく、また償いでもなく・・・
一人の家には帰る気がしなかった。
俺は家の側の公園に行き、ベンチに腰掛け俯いていた。
陽子に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
また、自分が歯痒くて仕方がなかった。
と、その時、コーラの赤い缶が、目の前に差し出された。
見上げた俺に、「どうした?彼女と喧嘩でもした?」
香織だった。
俺は立ち上がり、香織を抱きしめた。
「ちょっと、ちょっとー」
香織はそう言ったが、俺は尚もきつく抱きしめた。
そして声を上げ、大声で泣いた。
そう・・・あの日の香織のように・・・
「落ち着いた?」
香織の声に、自分を取り戻した。
「ごめん・・・」
俺は香織に謝った。
「謝るより・・・感謝されたいな、あたしとしてはね」
「あぁ・・・ごめん・・・」
「座ろっか?」
クスリと笑った後、香織はベンチを指してそう言った。
俺は黙って頷き、腰を下ろした。
「喧嘩した?」
「いや・・・そうじゃなくて・・・」
「自分自身が情けなくて・・・そしたらなんだか泣けてきて・・・」
「そしたら香織が目の前にいて、なんだか甘えたくなった。」
「ごめん・・・」
「そっか・・・」
香織はそう言うと、コーラの蓋を取って俺に差し出した。
俺は受け取るには受け取ったが、飲む事が出来なかった。
「3年も前だね〜あたしがここで泣いたの。誰かさんに抱きついてさ。」
「先輩にいじめられた位で、好きな陸上を辞めた自分が、なんだか情けなくてね〜」
「そしたら目の前に、突然コーラが出て来たじゃない?」
「『今、この人に甘えたい』って思った訳よ」
「そしたらさ〜その相手が、幼馴染の俊ちゃんでしょ!もうびっくりでさ。」
「気付いたら、抱きついて泣いてた訳よ」
そう言うと香織は、俺の手からコーラを取り、一口飲んで返した。
「あの日のコーラ、美味しかったよ。缶に砂ついて、ぬるくなってたけどね。」
「あのコーラのお陰で、あたし元気になれたんだ。」
「だから俊ちゃんもコーラ飲んで、元気出しなって!」
そう言って香織は、俺の肩を思いっきり叩いた。
「俊ちゃん・・・」
暫く黙ってた香織だが、口を開いた。
「キス・・・しよっか?」
俺は驚いて、香織の顔を見た。
その途端香織は顔を近づけ、唇を重ねてきた。
「あ〜っ!ちゅーしてるぞ〜!」
遠くで子供の声が聞こえるまで、香織は唇を離そうとはしなかった。
「じゃ、あたし行くね」
唇を離すと、立ち上がった香織。
「オマタ、興奮してるみたいだから、彼女に頼んで沈めてもらいなさい!」
そう言うと香織は、ゆっくりと公園の出口へと歩く。
その背中に俺は、「香織、好きだよ」と叫んだ。
「人をふっといて、今更だぞ〜」
香織は俺の方を見ずに、手だけを振った。
3日後、陽子から手紙が届いた。
俊也さん、あなたがあの日の事の償いの為に、私と付き合い出したって事は知ってました。
あんな事があって辛かったけど、でも結果として、俊也さんと付き合えて良かったと、私は思ってました。
でも俊也さんは、ずっとあの日の償いのままで。
責任とか償いとか、それだけなら愛じゃないです。
愛されてないのに、ずっと一緒にいるのは辛いです。
出来る事なら俊也さんの愛で、あの日の事を忘れさせてほしかった。
でも、もう・・・
俊也さんは十分、償いを果たしてくれました。
これからは自分の為に、俊也さんが愛せる人をみつけて下さい。
ありがとう。楽しかった。これからもっともっと、楽しみたかったけど・・・
さようなら。
陽子
大学に入学した俺。
入学して1ヶ月が経つが、引っ込み思案な性格が災いし、友達はまだいなかった。
一人で登校し、一人で授業を受け、一人で昼食を摂り、一人で帰る生活。
慣れない一人暮らしで、正直寂しかった。
でも、自分からなかなか解けこめない俺。
情けない・・・
「隣り、空いてますか?」
学食で昼食を摂る俺に、声をかけて来た女。
見上げると・・・
「彼女、出来た?」
「いや・・・」
「優しいから、もてるでしょ?」
「いや・・・」
「うそ〜っ!絶対もてるって!」
「そんな事ねぇよ!」
「ごめん・・・怒った?」
「いや・・・」
「怒ってるでしょ?」
「いや・・・」
「あたし・・・迷惑かな?」
「いや・・・」
「静かにしてた方がいいなら・・・黙ってようか?」
「うるさくてもいいから・・・俺の彼女になってほしい。好きだよ。ずっと好きだった。香織・・・」
「あたしだって・・・ずっと俊ちゃんの事・・・好きだったんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。子供の時から好きだったんだからね。」
「えっ?」
「あたしのアルバムね〜・・・俊ちゃんがいっぱい写ってんの!」
「それはそれは・・・奇特な方で・・・」
「『蓼喰う虫も好き好き』って事!」
ヴァージンロードをゆっくりと進む香織。
そしてそれを待つ俺。
「大学だけは、きちんと卒業します。」
香織の家に挨拶に行った19歳の正月に、香織の父親とした約束。
俺たちはきちんと4年で卒業し、香織はOLになり、俺は都内の商社に勤め、2年後にこの日を迎えた。
香織を待つ間、俺は昔の事を思い出してた。
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