何時か、そんな時が来たら俺も男だ。きちんと落し前は付けると思っていても、中々そんな時は訪れませんでした。
いや、そんな時もきっと逃げてしまうのだろうとさえ思ったものです。
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妻の残業の水曜日がやって来ました。
やはり、帰宅は私よりも遅いようです。
食事は娘達が用意してくれるので困りはしません。
私は帰宅後の妻の様子を細かく観察してやろうと思っています。
10時をとうに回って妻は帰宅しました。
やはり、私には視線を合わさず浴室へと向います。
「食事はすんだのか?少し話しでもしないか?帰るそうそう風呂でもないだろう」
「後にしてくれる。汗を掻いて気持ち悪いのよ。シャワーを浴びてくるから少し待ってて」
「そんなに汗を掻く季節でもないだろうに」
私は妻に疑われているんじゃないのかと思わせたかったのです。
どんな表情をするだろうか?
「そんな事言ったって、気持ち悪いんだからしょうがないでしょう。すぐに出るわよ」
妻はその時も私と視線を合わせようとはしません。
シャワーから上がった妻に職場の事を聞くと、やはり余り話したがりません。
勤め初めと違い、今は仕事は楽しいけれど、それだけ責任も持たされて家庭では仕事の話しはしたくないそうです。
男が言うような事を言っています。
それにしても、勤めて1年足らずで そんなに責任のある仕事を任されるもなのか?
会社にも色々あるでしょう。ましてや、妻の務め先はそんなに大きな会社ではありません。
自分で言うように、男以上の仕事をするなら そんな事もないとは言えませんが。
でも私は疑っています。
そんな目で妻を見ているのですから、それからも言い争いは幾度かありました。
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あからもう4年が経ちました。
娘達も大学に通うようになり、私が以前から、心に決めていた時期が来ているのです。
妻はと言うと、娘達に手が掛からなくなったのをいい事に、週1回の残業の約束を全く守らなくなっています。
その事をきっかけに、妻と互角に向かい合う覚悟を遂に決めました。
残業で遅くに帰宅した妻に私は声を掛けます。
「もう、仕事を辞めてもいいんじゃないのか?
俺も もういい年だ。家に帰って自分で食事の用意をするのはきつい。
約束通りに週1回の残業で済まないなら仕事は考えてくれないか?」
「食事の用意なら、あの子達にしてもらえばいいじゃない。あの子達も もう大人なんだからそのくらいさせてよ」
「あいつらにも事情があるだろう。バイトで遅かったり、勉強も忙しい。そう毎回頼んでもいられないよ」
その時、妻は言わない方がいい事を口にします。
「そんなに私が仕事をするのが嫌なら、別れてもいいのよ。子供達も もう大学に入ったし理解してくれるわ。私は離婚してでも仕事を続けたいの」
「そうか。俺達の生活よりも仕事がそんなに大切か。分かった。考えてみるよ」
「えっ?」
妻は私がこんな反応をするとは思ってもいなかったのでしょうか?さすがに私の目を唖然とした表情で見返しました。
私はそんな妻を無視して寝室に向かいます。
私の表情は妻とは逆で、満面の笑みが浮かんでいる事でしょう。
私から言わなければならない事を妻が口にしたのです。
私は何一つ面倒な事をしなくていいのです。
もし、このまますんなり離婚となっても、慰謝料だの何だのと煩わしい事もあるでしょう。