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バイト帰りに出会った女子高生との数年間の話
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361 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/11(日) 01:25:19.45 ID:NvS4gIBG.net
「…お兄さん?」

振り向かなければいいんじゃないかとか考えたけど、それは出来なかった。

余りにも悲しそうなその声の響きを無視できなかった。

「しら、いし…」

振り返ってどうしたらいいのか分からなかった。

「綺麗な人じゃん…お幸せに。」

いつもの白石からは考えられないような、冷たく、それでいて吐き捨てるような口調だった。

たった一言。

その言葉が突き刺さる。

「あ、ちょ!おい!」

声をかけても白石は振り向くことなく行ってしまった。

「…今の人は?」

続きを紡ぐのは憚られたのだろう。どこか分かった風に戸田さんは俺を見ていった。

「いや、そんなんじゃ…」

何も言っていないのに弁明口調だった。どうしようもないほどに慌てていた。

「小島君さ、嘘つくとき目合わせてくれないよねww」

僅かに笑ったような声を聞いて、しまったと思い戸田さんの目を見る。優しくて、どこかに諦めというのを孕んだ目だった。



363 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/11(日) 01:30:59.01 ID:NvS4gIBG.net
「ごめんね、今日ちょっと用事で来たから…」

その場で振り返ると足早に去っていく戸田さん。

「あ…」

頭ではわかっていた。戸田さんを止めなければ、何とかして引き留めなければ。声を出そうとして、喉で声が消える。

声が出ないなら追いかけて手を引いたりとか、そのあと落ち着いてから弁明する幾らでも方法はあったはずなのに、そこから動けなかった。

動けないまま手を伸ばして、届かないと分かって手を下ろす。一人取り残されたままどうしようもない感情に苛まれる。

最悪だ。いや違う、俺が最低なのだ。



365 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/11(日) 01:33:55.96 ID:NvS4gIBG.net
そのまま帰る気にもなれず、かといって立ち竦んでいるのも出来なくて歩き出した。

歩いてれば少しくらいは思考が形になってくれるかと思ったが全くそんなことはなかった。

20分位歩いたんだと思う。

時計は見てないけど何となく歩いた時間が分かったのは白石と来た公園に気づいたらいたからだ。


ぼんやりと川面を眺めて煙草をふかす。

俺が全て悪いのは分かっている。

そのことに自己嫌悪しながら同時にどこかで良かったとおもっていた。

それがまた自己嫌悪を加速させる。

長引かない方が良いと理解しながら自分からそれを打破することをしなかった。

自分で言いだして傷つけたくなくて、外的要因に任せたのだ。



違う。違うだろ。

人を傷つけたという事実が自分にかかるのが嫌だっただけだろ。

そのことに対する自己嫌悪と、これ以上板挟みにならなくていい安堵。その安堵に対するさらなる自己嫌悪。

ぐちゃぐちゃの感情が思考を濁らせていく。

それでも一つだけ理解していた。いい加減に決めるべきなのだ。今でも好意がある白石か、尽くしてくれる戸田さんか。

こればかりは伊達にも相談できない。俺が考えて俺が結論を出さねば。



366 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/11(日) 01:37:38.46 ID:NvS4gIBG.net
数日後に戸田さんが家に来た。戸田さんの方から俺に会いに来た形だ。

「あ、小島君!何か食べたいのある?食材買って来たんだ?」

戸田さんも緊張しているのだろう。食材買って来たのに食べたいものあるなんて正直無理があるだろう。

「あの…」

戸田さんは俺の横をするりと抜けて台所に立つ。

「あ、今料理するからちょっと待っててね!」

「戸田さ、」

「小島君お肉とかダイジョブだよね?」

戸田さんのペースに巻き込まれそうになる。長引かせない方が良いと分かってるだろ。腹くくれ。大きく息を吸って、それを声に変える。

「と!ださん・・・」

勢い込み過ぎて後ろの方は尻すぼみに小さくなっていった。

真後ろでいきなり大声を出して驚くものかと思いきや戸田さんは違った反応を見せた。

肩が震えていた。

だが戸田さんは一度深呼吸をしてから俺の方に向き直った。



368 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/11(日) 01:43:07.33 ID:NvS4gIBG.net
「…この前の子の事?」

戸田さんが確認するように俺に問う。そのまっすぐな瞳があまりにもまっすぐ過ぎて思わず目を逸らしそうになるが堪える。

俺から言いださなければいけない事なのだ。

「はい。」

短く、それでいて確かに戸田さんに言葉を返す。


戸田さんは分かっていたように頷いて。そっか、といってから一拍置いて続けた。

「私はね・・・私以上に小島君の事理解できる人いないと思ってるし、小島君が大抵何しても許容できるし、私、小島君の事、好きだし。」

戸田さん位綺麗な人からそう言ってもらえて、素直に嬉しかった

それでも、悲しそうに、戸田さんは どんな時よりも悲しそうに笑って俺に言う。俺の答えを知っているかのように、悲しげに。

「…すみません…」

それ以上に何を言うこともできない。言えなかった。ただ俺は頭を下げた。

「うん…知ってた…」

下げた頭を上げると平然としたように戸田さんが笑っている。

そんなわきゃねーだろ…!何だって都合よく眼を逸らそうとしてるんだよ!

爪が食い込んで白くなっている拳も、口の端を小さくかんでるのも、今にも泣きそうになって目尻に涙をためているのも、全部分かってるくせに逃げるなよ!俺が出した答えなんだろ!お前には正面から受け止める義務があるんだよ!



369 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/11(日) 01:48:04.64 ID:NvS4gIBG.net
「小島君が私の事を好きじゃないのはね、知ってた。

ううん、なんか違うな…えっと、私を見てるようで私の先に見える何か、誰かを見てるのに気づいてたの、

でも、別れるのはいやで、ごめんね、私の我儘で余計に傷つかせることになって…」

「違う、違うんです…」


俺が悪いのだ、心から思っていてくれた戸田さんに中途半端な気持ちで応えようなどと考えた俺が、傷つけるのが怖いと思っていた。

違う。

そうじゃない。

俺は人を傷つける事をして、そのことで自分が傷つくのが怖かったのだ。

その都合のいい理由として傷つけるのが怖いと言って逃げたのだ。


「小島君さ、自分から私に何かして欲しいみたいに言ったこと無いの気づいてた?

私ね、それでも応えようとしてくれる小島君に甘えてたの。

だから…私と、別れてください。」


何でそんなことまであなたが言うんですか。

違う。

俺が悪いのに。

俺が全て悪いと分かった上で、その上で俺が傷つかないようにという言葉なのが突き刺さる。



372 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/11(日) 01:51:10.61 ID:NvS4gIBG.net
止めてくれ。

今の俺に優しい言葉なんかかけないでくれ

もっと俺を責めてくれ。

「他の女の子に手を出すなんて最低!」なんて言いながら一発殴られた方がよっぽどすっきりする。

本来なら俺から切り出すべきことで、俺が言い出さなきゃいけない事なのに、涙腺が緩む。視界がにじむ。

耐えろ!こんなことまで彼女に言わせておいて、どんな顔で俺が泣くのだ!泣く権利すら俺には無いだろ!

「…お、お断りします!」

歯を力いっぱい噛みしめる。そうでもしないと力が抜けて涙があふれそうだ。

驚いたような空気が伝わってくる。

「そ、そのうえで、俺から言います。お、おれとわ、わかれてくだ、さい。ほかに、すきなひとができました…」

泣くなって…

どこまで自分勝手なんだよお前

最低じゃねーか



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春, すっきりした話, 純愛,
 


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