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162 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:21:03.46 ID:MzdjVTRc0.net
俺が東屋の中に人影を確認した瞬間、ぽかりと口を開いたままその場で立ち止まってしまった。
その人影は遠目でも美凪だと分かった。
だが、それ以上に驚いたのは、美凪が黄金に輝く大きいライターでタバコに火を付けようとしていたことだった。
163 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:21:40.00 ID:MzdjVTRc0.net
美凪が握っているそのライターも、直感で美凪よお母さんのものだと感じた。
美凪の年季の入ったヘッドホンですら、お母さんの物なのかはまだはっきりとしていない。
だが、ライターもヘッドホンも、美凪のやけに渋い趣味も、全てお母さんからの贈り物だとその瞬間に確信した。
164 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:22:07.35 ID:MzdjVTRc0.net
俺がボーッと立ち止まり美凪を眺めていると、美凪は口にタバコを咥えた。
ゴホゴホと大きく咳き込みえずいている。
どう見てもタバコに慣れている様子ではなかった。
165 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:23:05.67 ID:MzdjVTRc0.net
俺は必死にタバコを吸う美凪が悲しいとかそういうのでは無く、プレッシャーと不安に押しつぶされそうな恐怖に耐えているように見えた。
だって、怪我で陸上を諦めた時の俺みたいに見えたから。
166 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:23:42.60 ID:MzdjVTRc0.net
俺が靭帯を怪我して医者からも、もう走らない方がいいと言われた時、人生で初めて涙が枯れるまで泣いた。
ここまであまり描写して来なかったが、それほど俺は陸上に力を入れていた。
俺が東屋の中に人影を確認した瞬間、ぽかりと口を開いたままその場で立ち止まってしまった。
その人影は遠目でも美凪だと分かった。
だが、それ以上に驚いたのは、美凪が黄金に輝く大きいライターでタバコに火を付けようとしていたことだった。
163 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:21:40.00 ID:MzdjVTRc0.net
美凪が握っているそのライターも、直感で美凪よお母さんのものだと感じた。
美凪の年季の入ったヘッドホンですら、お母さんの物なのかはまだはっきりとしていない。
だが、ライターもヘッドホンも、美凪のやけに渋い趣味も、全てお母さんからの贈り物だとその瞬間に確信した。
164 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:22:07.35 ID:MzdjVTRc0.net
俺がボーッと立ち止まり美凪を眺めていると、美凪は口にタバコを咥えた。
ゴホゴホと大きく咳き込みえずいている。
どう見てもタバコに慣れている様子ではなかった。
165 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:23:05.67 ID:MzdjVTRc0.net
俺は必死にタバコを吸う美凪が悲しいとかそういうのでは無く、プレッシャーと不安に押しつぶされそうな恐怖に耐えているように見えた。
だって、怪我で陸上を諦めた時の俺みたいに見えたから。
166 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:23:42.60 ID:MzdjVTRc0.net
俺が靭帯を怪我して医者からも、もう走らない方がいいと言われた時、人生で初めて涙が枯れるまで泣いた。
ここまであまり描写して来なかったが、それほど俺は陸上に力を入れていた。
167 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:24:52.04 ID:MzdjVTRc0.net
トラックを駆ける爽快感、自己ベストを出した時の感動、数メートル前を走るライバルをゴール前で追い抜かした時の達成感。
それらを全て失った時の恐怖は異常だった。
168 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:25:40.32 ID:MzdjVTRc0.net
そして、夜の病室で一人で号泣してる時、今まで見舞いに来なかった樋口が、面会時間もとっくに過ぎているのにドアを蹴飛ばす勢いで病室に飛び込んで来たのを思い出した。
入院初日の夜だった。
169 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:26:21.73 ID:MzdjVTRc0.net
樋口「わりい、遅くなったでござるwww」
樋口「イッチ、寝てるかのか〜?www」
樋口「そうだよなぁ」
熱血な祖父に「人前で見せていい涙は、産まれた時の涙と嬉し涙だけだ」と叩き込まれてきた俺は、樋口の前では泣いちゃいけないと必死に涙を堪えていた。
170 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:27:29.08 ID:MzdjVTRc0.net
樋口はやっぱり俺が寝てると思っていた。
すると樋口がベッドに顔を埋め大声で号泣。
いつもオタク口調でヘラヘラしてる樋口が泣いているのを初めて見た。
なんでお前が走れなくなるんだよ、まだ走らないとダメだろ、とか必死に叫びながら。
人前で泣くことは恥と思ってきたが、初めて人前で泣いてもかっこいいと思えるやつを見た。
樋口は泣き疲れると、
樋口「また走ってくれよ、イッチwwwwww」
と笑いながら、フラフラと病室を出ていった。
171 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:30:30.55 ID:MzdjVTRc0.net
ごめんよ樋口。
俺、また走ることはなかったよ。
中学卒業時には何とか歩けるようにはなっていたものの、体力も落ち走ることへの情熱も無くなり落ちぶれた俺は、高校でも走ることは無かった。
172 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:31:01.45 ID:MzdjVTRc0.net
陸上を諦めて仕方なく美術部に入った。美術部に逃げたって言った方がいいんだろうけど。
それでも、絵を描いていて良かったってこの合宿で初めて感じた。
絵を描くことが楽しいって教えてくれる人と出会って、俺の実力を認めてくれる先生もいる。
そんな環境が俺を変えたんだと思う。
たった数日で。
173 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:31:21.00 ID:MzdjVTRc0.net
樋口の、また走って欲しいという願いは聞いてあげられないけど、俺は美術で陸上を越えたいと思った。
この合宿で、俺はこれから先も絵を描きたいんだって確信した。
174 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:34:06.68 ID:MzdjVTRc0.net
そんな俺に、どうせすることがないから、と美術部にまでついてきてくれた樋口。
陸上を辞めた日から今日まで樋口に支えられることは何度もあった。
そんな樋口がプレッシャーと不安に押しつぶされそうな俺を助けてくれたんだから、目の前の美凪のことも助けてあげたくなった。
助けられていた存在が誰かを助ける存在になるということが、樋口のおかげで俺のあごがれになってもいたから。
176 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:36:30.49 ID:MzdjVTRc0.net
泣きそうになりながらタバコを吸ってる女の子なんて、今までの人生で一度も見た事がないけど、俺がすることは決まっていた。
俺も樋口みたいになれるかな。
俺「お〜い美凪〜www 俺にもタバコ1本くれ〜www」
177 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:36:54.73 ID:MzdjVTRc0.net
タバコなんて吸ったことなかった。
だが、樋口があの時自分の事のみたいに泣いてくれたように俺もタバコを吸ってみるだけだwww
俺の声に気付いて美凪は振り返ったが、隠れてタバコを吸っている不良たちが先生に見つかった時に咄嗟に隠すような行動はしなかった。
手にはライターをしっかり握り、口からは煙を力なく吐きながら俺を見つめてくれていた。
178 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:37:34.51 ID:MzdjVTRc0.net
俺「もう9時だぞwww まだ居たのかよwww」
美凪「イッチこそ、民宿抜けてきたの〜?www 民宿のおばさん達心配させたら怒るからね!」
俺「俺がお前を心配してんだよwww いいから俺にもタバコ1本よこせwww」
美凪「私が吸っててもなんも言わないんだ、それとも何か知ってるとか〜?」
179 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:38:16.58 ID:MzdjVTRc0.net
さっきより美凪の表情が明るくなった。
いつか俺が昼間から東屋に行った時、待っててくれた感じがして嬉しかった。
今もそんな感じがする。
180 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:39:21.83 ID:MzdjVTRc0.net
初めてのタバコを前に心臓をバクバク言わせながら、ライターで火をつけてもらう。
タバコは慣れてないくせに、火の付け方はヘビースモーカー顔負けだった。
それで、やっぱりこのライターもお母さんからの贈り物なんだろうなと確信した。
181 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:39:55.89 ID:MzdjVTRc0.net
美凪が絵を描くのは、亡くなったお母さんのため。
皆木の趣味が渋いのは、亡くなったお母さんに教えてもらったから。
美凪が慣れないタバコを必死に吸おうとするのは、亡くなったお母さんに会えなくて寂しいから。
俺が合宿で地元に帰る前に、美凪が絵を描く理由をもっと増やして、タバコなんか吸わなくてもいいようにしてやりたかった。
182 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:40:34.21 ID:MzdjVTRc0.net
俺「なぁ、そのライターもお母さんから貰ったんだろ?そのヘッドホンも、渋い趣味も。」
美凪「せいかーい!やっぱり民宿のおばさんたちに教わったでしょ〜www」
俺「美凪のお母さんが亡くなっていることはな。どれがお母さんからの贈り物かなんて、見ればわかるしな」
美凪「やっぱりそうかぁ〜www 尾崎豊を聴く女子高生なんてそう居ないもんね〜www」
俺「そして、一番驚いたのは、絵を描くこともお母さんからの贈り物ってことだな。」
美凪「そうだよ。お母さんが私に絵をくれたの。だから絵を描いてるし、描きたいって思うよ。」
183 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:42:04.31 ID:MzdjVTRc0.net
美凪は本当に楽しそうに絵を描く。お母さんのためだけとは思えないほどに。
でも、それはプレッシャーや不安、寂しさを紛らわせるためでもあるのかな。
184 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:42:23.58 ID:MzdjVTRc0.net
お母さんが亡くなった寂しさからも逃げないで絵を描き続けるのは、陸上から逃げた俺よりもやっぱり何億倍もかっこいい。
だが、俺はかっこ悪くてもいいから、美術部に入って良かったと思う。
それに、美術で美凪に追いつけるくらいかっこよくなってやると思ったから。
185 :名も無き被検体774号+:2021/08/15(日) 11:43:10.03 ID:MzdjVTRc0.net
そして、ついに初めてタバコを咥える。
なんというか、変な匂いに味。正直いって美味しくないな、と思った瞬間。
俺「ゲホゲホゲホゲホゴホッゴホッグハァwwwゴホゴホwwwwゴハァwww」
盛大に咳き込んでしまった。
大人はどんな顔してこれ咥えてんだよ。
マイルドセブンだったっけな、まだメビウスに改名される前だったから。
美凪「ゲホゲホゲホゲホゴホッゴホッグハァwwwゴホゴホwwwwゴハァwww」
美凪もまたタバコを咥えて咳き込む。
実にバカバカしい。
慣れてないやつらがタバコを吸うとこんなに面白いものなのか。
>>次のページへ続く
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