悪戯
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他人に成り済まして妻の過去を探り、今では携帯まで盗み見ている男。
本来真面目な妻が、このような私に愛想をつかす事は目に見えています。
自分で自分が情けなくなりますが、この期に及んでも有利に立つ方法で、この事を解決しようと考えていました。
そして、まさか私が携帯を見るような姑息な男では無いと信じている妻は、ロックもせずに内容を消す事もなかったので、私は妻が次の金曜の夜にホテルでのディナーに誘われている事を知ってしまいます。
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「今日は一度帰って敦の食事の用意をしてから、典子と食事に出掛けます。申し訳ないのですが、あなたは外で済ませて貰えますか?典子ったら、急に何の相談かしら」
この頃には妻は嘘を吐く事にも慣れてしまったのか、私の目を見ながら堂々と話しました。
妻と彼が待ち合わせたのは7時30分だったので、2時間ぐらいで終わるだろうと思った私は、仕事を終えると食事をしてから9時にはホテルの前まで行って待ちましたが、一時間待っても妻は出て来ません。
まさかホテルに部屋がとってあって。
不安になった私は居ても立ってもいられずに、レストランの中を探そうとホテルに向かって歩き出した時、ようやく二人は出てきたのですが、妻は彼としっかり腕を組んでいました。
私は咄嗟に偶然通り掛った振りをして、そのまま止まらずに二人に向かって歩いてゆき、妻達の前まで行くと驚いた顔をして立ち止まると、何も言わずにそのまま通り過ぎます。
「あなた、待って」
私は背中に妻の声を聞きながら、振り向きもせずに早足で駅に急ぎます。
すると妻は慌ててタクシーで帰って来たのか、既に家で待っていました。
「あれは違うの。彼は大学時代の友人で、典子と別れてから偶然あって、懐かしくてホテルのロビーでお茶を・・・・・・・」
私の計画では、妻を責めるつもりはありませんでした。
私が卑劣な行為をしていた事は言えないと思いましたが、自業自得なので妻に今後彼と会わないで欲しいとお願いするつもりでいたのです。
しかし、妻が彼の腕を抱き締めるように、しっかりと腕を組んでいた事が その思いを拒みます。
「女友達と会うと言って出掛けたおまえが、男と腕を組んでホテルから出て来た。それが全てだ」
妻は急に震え出し、立っていられないのかテーブルに両手をつきました。
「これで俺を拒んでいた訳も分かった」
私がそう言い残して寝室に行くと、一時間ほどして入って来た妻は必死に言い訳をしていましたが、私は布団を被って何も言いませんでした。
精神的に疲れてしまったのか このような時でも眠れるもので、朝になって一睡も出来なかった妻に起こされます。
「あなた・・・・朝食の用意が・・・・・」
私は何も話さずに顔を洗うとコンビニに行き、妻の作ってくれた朝食を生ゴミの容器に放り込んでから、これ見よがしに買ってきたパンをかじりました。
「お父さん、どうかしたの?」
「今から部活でしょ?あなたは心配しなくてもいいから行って来なさい」
息子が出掛けると、妻は床に正座して頭を下げます。
「彼とは何もありません。今後このような事は絶対にしませんから許して下さい」
「奈美は一緒にお茶した男とは腕を組む事にしているのか?それならば携帯を見せろ。どうした!見せられないだろ!」
私は拗ねた子供のようでした。
私も悪かったと妻に謝って、仲直りしようと何度も思いましたが出来ません。
私のやって来た悪行で、この後もっと酷い事態になってしまうと、この時分かっていれば謝ったのですが、この時の私は妻を責めることに不思議な快感まで覚えていたのです。
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妻と彼がキスさえしていないのは分かっていましたが、腕を組んで出て来た時の、妻の恥ずかしそうでもどこか嬉しそうな、少女のような表情が頭から離れません。
妻にすれば怒ってくれた方が気が楽なのが分かっていて、私は五日間も口を利きませんでした。
その様な私に妻は謝り続けましたが、彼の素性については頑なに明かさない事や、あの様子ではあの時私に会わなければ、誘われればラブホテルにでもついて行ったのではないかという、勝手な想像が私を卑屈にしてしまいます。
「明日はこの地区の学校の代表で、研修に行かなければならないので遅くなってしまいます。
本当は先週決まったのですが、このような事をしてしまったから言えなくて・・・・・・。
出切る限り早く帰ってきますから許して下さい」
それは あの日から丁度一週間後の週末だったので、また彼に会うのではないかと心配だったのですが、私は妻を無視し続けます。
そして 遅くても7時には帰ってくると言っていた妻は、私が8時に帰って来てもまだ帰って来ていませんでした。
結局 妻が帰って来たのは9時を過ぎていて、私は一週間振りに怒りを口にします。
「彼と会っていたのか!」
「本当に研修でした。お疑いなら学校に問い合わせて下さい」
妻は今までの様に必死に言い訳をする事も無く、静かにそう言うとお風呂にも入らずに眠ってしまいます。
妻と彼が抱き合っている姿が浮かんで寝付かれない私は、明け方になって眠りについたので昼過ぎまで眠ってしまい、目を覚ますと妻はキッチンで泣いていました。
そして夕方まで泣き続けた妻は急に泣き止むと、シャワーを浴びて出掛ける支度を始めます。
「何処に行く?また彼と会うのか?」
しかし、妻は何も話さずに出て行ってしまい、一時間ほど経ってから久し振りに北村の携帯にメールが入りました。
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今から彼と会います。
彼が昔果たせなかった想いを叶えてあげようと。
今夜は帰れないかも知れない。
いいえ。その様な事になったら、もう主人の元には帰れない。
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私は また北村に成り済ましてメールを送り続け、思い止まるように必死に説得しましたが妻からの返事はありません。
それでも諦めずに何通もメールを送り続けていると、やっと返って来たメールには、私が北村になり済ましていた事を、妻に知られる覚悟が無いと妻を止められないような内容がかかれていました。
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今の私を止められるのは主人だけ。
でも主人には言えない。
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この期に及んでも私は迷っていましたが、妻が他の男に抱かれるぐらいなら、私が卑下されるぐらいはどうでも良いと考え直して妻の携帯に電話を入れて説得すると、妻から返ってきた答えは私をどん底に突き落とすものでした。
「やはりあなただったのね。会わないでくれと言われても、彼はもう横にいます」
「違う。北村から電話をもらって」
「まだその様な事を。研修で北村さんに会ったの。あの日研修が終わってから、北村さんと話していたから遅くなったの」
悪い事は出来ません。このような偶然があるのです。
勿論離れていると言っても同じ県内の教師なので、このような偶然があっても不思議ではありませんが、妻と北村がその様な場所で会う確率はゼロに近いと思っていました。
しかし妻と北村は再会し、妻が会釈すると北村も妻の事を覚えていて、研修が終わってから二人でお茶を飲んだそうなのですが、当然話は噛み合いません。
その時、妻は自分と北村を良く知る人物が北村に成り済ましていると悟り、私の顔が浮かびましたがすぐに強く否定します。
「まさかあなたが このような事をする人だとは思わなかった。
彼に話したら、どう考えてもあなた以外に無いと言われ、私はあなたを信じたかったけれど、そのような疑念を振り払う為に・・・・・・・・・・今夜は帰りませんから」
「何を言っている!隣にいるなら彼に代われ!」
「岩本と申します。奈美をあなたには任せておけない。これからは私が奈美を幸せにします。奈美と結婚出来るなら、慰謝料などいくらでも払う覚悟でいますから、いくらでも請求して下さい」
「何を言っている!金などいらない!奈美と別れる気など無い!」
「あなたは酷い男だ。話は聞かせてもらったが、普通愛していれば、このような姑息な真似はしない」
それを言われると言葉がありません。
「奈美にあなたは相応しくない。お互い回り道をしたが、やはり私と奈美はこうなる運命だったんだ」
「勝手な事を言うな!」
しかし、電話は切れてしまい、何度掛けても電源が切られていて繋がらずに、その夜 妻が帰ってくる事はありませんでした。
そして翌日の朝になって帰って来た妻は、私を無視してベッドに潜り込んでしまいます。
「話は後にして下さい。彼が朝まで寝かせてくれなかったから、とにかく今は眠らせて」
そう言うと本当に眠ってしまい、私はその様な妻を見ていると涙が止まりません。
妻は彼のペニスを口にしたのか。
妻の身体の表も裏も、頭の先から爪先まで、全身彼の舌は這い回ったのか。
妻は歓喜の表情を見せ、歓喜の声を上げたのか。
そして彼のペニスが妻の中へ。彼のペニスは私のと比べてどうだったのだろう。彼には長年の想いがあるだけに、硬く反り返っていたに違いない。それが妻を串刺しにするように。
それは一度で終わったのか。朝まで寝かせてもらえなかったと言う事は、いったい何度交わったのか。
避妊はどうだったのだろう。まさかそのまま何度も妻の中に。今も妻の中には彼の精子あり、妻の卵子を求めて活発に動き回って。
私は肩を揺すって起こそうとしましたが、妻は夕刻まで眠り続けました。
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妻が起きると私は床に土下座しましたが、正直に言うとこれはポーズだったような気がします。
自分のしていた事を棚に上げて、妻のやった事が許せません。
しかし、妻とは別れたくない。それが私にこのような行動をとらせたのです。
「俺が悪かった。どのような償いでもするから許して欲しい」
「本当に何でもしてくれる?それなら彼とのお付き合いを認めて下さい」
「そんな事を認められる訳がないだろ!」
「それなら別居しましょう。私は彼と一夜を供にしたのよ。そんな女と一緒にいられる?」
「だから、もう二度と彼とは会わないで欲しい」
「それは出来ない。彼と会う事が許せないのなら離婚して」
「俺と離婚して、彼と結婚するのか?」
「彼はあなたと別れて結婚して欲しいと言っているけれど、今の私には そこまでの考えは無いわ。今は ただ彼に償いたいのと、あなたと一緒にいたくないだけ。
でもこれは立派な裏切り行為だから、このような事が許されないのも分かっている。
だから離婚することになったら勿論慰謝料も払うつもり。私名義の貯金で足りないなら借金してでも払う」
お金など欲しくありません。妻と別れたくないだけです。しかし、慰謝料などという言葉を聞く度に、離婚が現実味を帯びてきます。
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その後、妻は言いたい事があればメールして欲しいと言い、一緒にいても私とは一切口を利かなくなり、私との会話は全てメールでするようになりました。
そして彼とも堂々と会い、会った日は必ず彼との事をメールしてきます。
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今、私は淳の部屋にいて、淳がシャワーを浴びに行ったので その間にメールしています。
今日は淳が私を彼女だと御両親に紹介してくれました。
その後、彼の部屋に行ったら、昔の私達の写真を沢山飾ってくれてあったので嬉しかった。
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今から抱かれるのか?
彼の部屋で抱かれるのか?
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私が彼と会うと、あなたはその事だけが心配なのね。その事しか頭にないの?
今から淳に抱かれるとしたらどうするの?
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帰って来い。もうこのような事はやめてくれ。
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いつも言う様に、私が彼と付き合うのが駄目なら離婚しましょう。
私は淳が望むことなら何でもしてあげたい。
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昔妻達は名前で呼び合っていたのか、いつしか妻は彼の事を“淳”と書くようになり、二人の距離の近さを感じて悔しさは更に大きくなっていきます。
そして、私はその悔しさを妻にぶつけようと、二時間以上経って帰ってきた、妻に後ろから抱き付いて、ベッドに押し倒して服を脱がそうとあいました。
「身体を見せてみろ!抱かれたのか!奴の部屋で抱かれたのか!」
「やめて!そんな事をするのなら出て行くわ」
「見せられないのか!奴に抱かれたから見せられないのだろ!」
「私が何をしようと放っておいて!」
「俺達はまだ夫婦だろ」
「法律上はね」
「出て行くと言っても敦はどうする!」
「勿論連れて行くわ。あなたのような男の元には置いていけない」
私は妻から離れましたが、今夜は引き下がる事が出来ません。
「確かに俺は卑劣な男かも知れない。それなら奈美はどうだ?まだ離婚もしてないのに、家庭を放り出して男と会ってばかりいる奈美はどうだ?」
「それはあなたが・・・・・・」
「確かに俺は姑息な手段で奈美の過去を知ろうとした。どうしても許せなければ、それで離婚されても仕方が無いと思う。
でも奈美はまだ離婚もしていないのに浮気している。まだ人妻なのに堂々と浮気している。
奈美は離婚して敦をおいていけば、敦が俺のような男にならないか心配なのだと思うが、それなら自分のような大人になるのは良いのか?夫がいながら他の男と遊び歩くような大人に。
それに俺のことばかり言うが彼はどうなんだ?
法律上だけにしても まだ奈美は人妻なのに、平気で人妻を誘う彼は姑息で卑怯な男では無いのか?」
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