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変なテンションの女

 



かなり頭の中身がぶっとんでいる女が、中学〜高校時代にいた。

裕子(仮)である。


朝、彼女は登校して教室に入ると

「うおーし!いっちょやってみっか!」

と、ドラゴンボールの孫悟空のモノマネをする。

彼女はお兄さんが上に3人もいて、趣味は男子と変わらない。

よく「女の子とは趣味が合わない」と言っていた。


彼女はゲームの「スパロボ」をこよなく愛しているようであった。

ロボットアニメのセリフを口にするのが好きである。

掃除の時間、ホウキを男子にむかって振り回し、

「ユニヴァアアアアス!」

と叫んでいた。


彼女は歌が好きだった。

声はハスキーだったが、どこか味のある声だ。

合唱でも、活躍していた。


ただ、彼女はよく休み時間に自分で作った歌を歌っていたが、その歌詞は凄まじかった。

♪愛してるの言ってたの〜

必ず捕まえるぜ スズメバチ! スズメヴァチッ!

だって世の中 オーソンウェルズ♪


こんな調子だから、他の女子とはあまり仲良くなかったようだ。

男子の中にも彼女を「わけわからん」というヤツは多かったが、俺は好きだった。

なんといっても、可愛かったのだ。
彼女は、自分のセンスが怪しいことを自覚していた。

もしかしたら、ワザと変な行動を取っていたのだろう。

パーカーの紐の端っこの結び目を花の穴に突っ込んだり、黒板に、やたら鼻の太いゾウさんの絵を書きなぐったり(そのまま授業に突入)。

たぶん、ウケを狙っていたのだろう。



中学時代のある日、裕子に手紙を突然わたされた。

「これ、渡してくんない?」

「誰に?」

「アンタんちの犬。」

家に帰って、その便箋をあけてみると、ルーズリーフにやたらリアルな骨の絵が描かれていた。


こんな裕子だが、成績は抜群によかった。

テストの度に、上位者アンキングに顔を出す才女だ。

おまけに、運動神経も凄かった。

バスケ部のエースで、球技大会では凄いドリブルを見れた。


高3の時、久しぶりに裕子と同じクラスになった。

放課後、教室では俺と裕子だけが勉強のために残っていた。

裕子「飽きた。疲れた。」

「俺も。」

裕子「骨の髄まで?」

「………いや、わからんよ」

裕子「勃起してろ、馬鹿!」

———と、全く意味の無い会話に突入。


裕子「ドラゴンキッド知ってる?」

「なにそれ」

裕子「超イカスよ。プロレスラー。」

「お前、プロレスなんて見るのか。」

裕子「闘龍門なら見る。」

(どこかの団体だろうか?)

裕子「お前、今度の日曜ヒマだろ?」

「まあな」

裕子「プロレス見に行くぞ。」

「………」


どうやらデートの誘い(?)だと思う。

裕子「イヤだといっても、連れて行くからな。」

強引なヤツだ。


日曜日、裕子と駅で待ち合わせ。

あんなヤツと会うだけなのに、かなり緊張していた。

しばらくして、裕子登場。肩とか首元がよく見えるファッションだった。やはり美人だ。

裕子「おせぇわ馬鹿。3時間も待ったぞ」

「嘘つけ!俺が10分も待ったわ!」

裕子「口だけは達者な………and you?」

「意味わからんし!」

ゲラゲラ笑いながら、プロレスの会場へ向かう。


裕子「兄貴の馬鹿が、チケット2枚も寄越しやがったんだ。」

「ふぅ〜ん」

裕子「ソウルフルだよね」

「そうだなぁ。」

会場は物凄い熱気だった。

ドラゴンキッド登場。緑色のマスクをかぶった、背の低い選手だ。

試合が始まると、ドラゴンキッドは体操選手みたいに動き回った。

初めてプロレスを見たが、「スゴイ!」と思ってしまった。


裕子はずっと叫んでいた。

「おい!うおおお!やれ!!」

そして、ドラゴンキッドがロープの上に登り、ジャンプして敵に飛びつくと、すごい速さで回転して敵をなぎ倒した。

裕子「やった!ウルトラ・ウラカンラナ!」

ゴングがなった。裕子はずっとはしゃいでいた。



帰り道、裕子はずっと俺に絡んで、パンチとかしてきた。

興奮冷めやらぬ様子。

裕子「アルバトロス殺法!」

「痛いってば!ってか、恥ずかしいから!!」

駅前で、やたら目立ってしまった。


マックで食事。裕子と二人で、やっぱりドキドキ。

裕子「うん、まいう〜。」

「?」


自転車で帰宅。

最後、別れる間際に、裕子は自転車を止めた。

「どうした?」

裕子「………ちょっと耳かせ。」

何だろうと思って、左耳を裕子に寄せる。

その瞬間、左の頬に何か当たった。

(!!)

キスされたようだ。



裕子「お礼ね。」

「………」←恥ずかしくて硬直

裕子「勃起した?」

「うるさい!」

裕子「あははは!じゃねー」

そう言って、裕子はものすごい速さで自転車をこいで消えていった。

たぶん、アイツも恥ずかしかったのだろう。可愛いやつだ。


次の日、学校で会った。

俺は裕子の顔を見ると、恥ずかしくなって下を向いてしまった。


裕子「おい、昨日のは幻覚だからな!ホントはキスとかしてないぞ!指でつついただけだ!」

そう言うけど、俺の左頬は濡れていたんだよ!


裕子とは、二人で遊びに行くことが多かった。

彼女は相変わらず言動が怪しい。周囲から見れば、「変な奴」「痛い奴」だと思われているに違いない。

だけど、裕子のその態度は、演技なんだろうと僕は思っていた。

本当に頭のおかしい人間が、ふっと一人になった時に、あれだけ鋭い目線をするものだろうか?


裕子は、周りに友人がいれば、面白いことを言ってはウケを狙う。

その間は、ずっと馬鹿みたいに笑顔を振りまいたりしている。

だけど、その雑談が途切れた時———授業中や、みんなが自習に取り組む放課後の教室では、裕子の目つきは少し怖いくらいに鋭いのだ。


裕子は、みんなに隠している、冷めた部分がある。


>>次のページへ続く
 
カテゴリー:男女・恋愛  |  タグ:胸キュン, 青春,
 

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