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不思議な友人と暮らしたひと夏の想い出をぽつぽつ語る
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212 :M子 :2018/08/24(金) 20:44:33.41 ID:SY+9SeAEp.net
翌日の朝。

わたしはオフ、ドラ子は仕事。慌ただしく準備する彼女を、寝起きでぼやけた視界で見つめていた。


ドラ子「仕事、行きたくねえ。」


思い詰めた顔で割れたファンデーションを見詰める彼女の頭を、ベッドから手を伸ばして撫でてやる。ここからでも、泣いてるのがわかった。

ドラ子は時々、こうして朝に泣く。出会った頃から変わらない彼女の癖。


申し訳ないことに、仕事と昨夜の情事とでわたしの体は満身創痍だった。彼女を撫でながら二度寝してしまった。


次に目を開けると、出掛ける支度のできたドラ子がいた。相変わらず浮かない顔をしている。


M子「行ってらっしゃい。無理しちゃだめだからね。」


ドラ子「ん。もっとちゃんと過ごしたかったんに、これが最後なんかぁ。」


M子「……最後にひとつ、お願いしていい?」


どうしても、欲しかったもの。彼女といた証。

わたしのプライドが傷付こうが何しようが、言わないと後悔すると思った。


M子「肩を、噛んで欲しい。」

驚いた表情を見せたのは一瞬、すぐに体が引き寄せられる。肩口に痛みが走る。思わず漏れる声。ギリギリと食い込む痛みを、二度と忘れないように自分の中に刻み込む。



「足りねぇだろ、それじゃ。時間なくてごめん。」


ああ、ツチノコだ。そう思った。口調、声のトーン。雰囲気。全部あの人だった。

そのまま背を向けて、出て行った。




ベッドに身を沈めて、ぼんやり天井を眺める。

と、慌ただしい音と共にもう一度彼女の姿が。忘れ物……?


ドラ子「…………っ、行ってきます!」


突然抱き着かれて思い切り抱き締められた。その後向けられた、弾けるような笑顔。わたしが大好きな彼女の笑顔。


M子「行ってらっしゃい。ドラ子。」


しっかり抱き締め返して、今度こそ彼女を見送った。



213 :M子 :2018/08/24(金) 20:45:35.85 ID:SY+9SeAEp.net
ご飯の時間だよ(´・ω・`)

今日は鮭だよ(´・ω・`)



214 :名も無き被検体774号+ :2018/08/24(金) 20:49:41.16 ID:NCvKq7i70.net
せ、せつねーーーーっ!




215 :名も無き被検体774号+ :2018/08/24(金) 20:52:02.65 ID:52Oj2jYEd.net
やだもう切なすぎるわー(´;ω;`)

色々思い出して辛いでござる




216 :ムッシュ【】 :2018/08/24(金) 21:06:26.22 ID:Lp4sFCLcM.net
今は吐き出すだけ吐き出して!!

そしたら、少しは楽になるのでは?



217 :M子 :2018/08/24(金) 21:13:40.98 ID:SY+9SeAEp.net
――ああ、この部屋、こんなに静かだっけ。

ベッドに寝転がって、辺りを見渡すと、過ごした時間が巻き戻るような気がした。


『肉じゃが作ったでー!一緒に食べようなぁー。』


『お前、バカ何お茶こぼしてんだよちょ、びしょびしょじゃねーかwww』


『ん?ノート書いたら寝るけん、M子ちゃん先寝とってええよ?』


『他の奴に傷付けさせんのは、あんま、いい気しねぇんだよな。」


『ここにきて、M子ちゃんに会えて、良かった。」


2人の姿が鮮明に浮かんで、滲む。

この部屋は。想い出が余りに多過ぎる。


彼のいない部屋で、彼女のいない部屋で、ひとり声を上げて泣いた。




218 :M子 :2018/08/24(金) 21:14:43.22 ID:SY+9SeAEp.net
みんなが優しいから、ほろほろしてきた(´;ω;`)

もう少しだけ、がんばる。




219 :M子 :2018/08/24(金) 21:23:19.45 ID:SY+9SeAEp.net
鍵はちゃんと、ポストに返した。

これでこの家ともお別れ。すごく近くにいるのに、こんなにも遠い。たった一駅なのにこんなに距離があるんだなぁ、なんて他人事みたいに思ってた。


それから、彼女の家には行ってない。

相変わらずドラ子からは電話がくる日々。お互いに仕事のことやくだらない事を話して眠りに着くのは変わらなかった。


わたしがコミュニティを去る前日。同棲直前。


M子「そう言えばあの時急に肩噛んで、なんて言ったからあの人びっくりしたんじゃないかな。」


ドラ子「……ん?それ、わたしやったで。わたしでええんかなぁって思いながら、噛ませて貰ったけど。痛くなかったと?あ、えと、痛くないと意味ないんやっけ…」


M子「え?……でも雰囲気はツチノコだった、よ?」


ドラ子「うーん、なんか、混ざっとったかもしれん。最近、ツチノコ出て来んのよな。もうずっとみてない。気配がせんのよ。」


……気配が…しない?






220 :M子 :2018/08/24(金) 21:33:41.37 ID:SY+9SeAEp.net
酷く嫌な予感がした。

昔、レイさんから聞いたことがあった。


『人格は混ざることがある。たくさんあった人格が一つになったり。いなくなって基本人格だけになったり。

恐らく世間でその状態は″治った″って言われるんだろう。精神が不安定な奴にとっては望ましい傾向だ。』


M子「え、えーっと…いつから、いないの?」


ドラ子「……たぶん、たぶんやけど。M子ちゃんと会った夜が最後やで。」


その夜は、ドラ子との電話を切った。


もう、ツチノコと会ってから1週間近く経ってる。それはさすがに変だ。

もし、もし万が一ツチノコがドラ子と混ざったとしたら。それは、一体どうしたらいいの?

顔は確かにドラ子と同じだけど、わたしに笑いかけた彼は、あの独特の話し方は。彼は。この世から、消えた?そんなの…


M子「そんなの、死んだのと同じじゃんか。」


ふざけるのもいい加減にして欲しい。


あんな馬鹿な夜が最後かよ。あんな、なんでもない会話が最後かよ。もっと、たくさん伝えたいことがあったのに。

会えて嬉しかったとか、まだ借りたゲームクリアしてないとか。こんなことなら、好きだってちゃんと伝えれば良かった。


わたしのことを、呼んだ夜が最後なんて。

嘘だよね、ねえ。返事して。




221 :M子 :2018/08/24(金) 21:51:42.88 ID:SY+9SeAEp.net
連絡が取れないまま、引っ越しの当日を迎えた。


ドラ子にとっては喜ばしいことなのかも知れないと思うと、連絡アプリで彼を呼ぶ気になれなかった。

アプリの画面はわたしが送ったくだらない文章で話は止まったままだ。


これがドラ子にとって良いことだとしたら、わたしがそれを壊すわけにはいかない。


姫「……で、わたしに泣きついて来たってわけですね。なるほど。」


M子「どうしたらいいか、本気でわからない。」


姫「どうせ最初から別れが決まってたんだからいいんじゃない、そのままでも。」


M子「……え?」


姫「さようならの仕方は、自分が決めるんじゃないの?ドラ子がとか、ツチノコが、とか。もちろんわたしが決めることじゃない。M子が決めること。」


わたしが、決めること。


その時偶然にも、コミュニティに出したわたしの脱退メッセージへの返事に、見慣れた名前が見えた。


″ツチノコ″

彼は消えてなかった。まだ、間に合う。




222 :名も無き被検体774号+ :2018/08/24(金) 22:04:20.73 ID:A0Umv8QE0.net
どきどきしてきた




223 :M子 :2018/08/24(金) 22:05:17.91 ID:SY+9SeAEp.net
M子「ねえ。」


ツチノコ「なんだよ珍しく電話なんかして、彼氏と喧嘩か?」


M子「まだ暮らしてもいないんですけどwww

じゃなくて、ちょっと黙って聞いてくれる?」


ツチノコ「ん?」


M子「本当は墓場まで持っていこうと思ってたんだけど、もうどちらにせよ結果なんて変わらないから言うことにした。返事は何にも言わないから聞いてて欲しい。

わたしね、ずっとツチノコの事が好きだった。いつもツチノコが言う変な意味で。恋愛としてツチノコの事が好きだった。

いつから好きだったのかはよくわからない、きっとイチと寝落ち電話する君の隣で泣いた時からかな。わかんないや。

でも、好きだから付き合ってとか。わたしだけとか、そんなこと望んでない。わかってると思うけど、わたしが困るから。

知ってて欲しかったんだ。わたしが君を好きだったってこと。ちゃんと、知ってて欲しかった。それだけなの。

…うん、聞いてくれてありがとう。それじゃあもう…」


ツチノコ「は?いや、それじゃあもうじゃなくて俺の話も聞いてけって。

いや、さ、全然気付かなかった、マジで。ごめ?。ありがとうな伝えてくれて。

なんつーか、受け取った。振るとかじゃなくて、ちゃんと受け取った。お前の気持ち。だー、いや、うまく言えねぇけど。俺の方こそありがとう。元気でやれよ。」


M子「うん。ありがとう、会えて良かった。」


ツチノコ「俺もだよ、お前と過ごせて、良かった。」


M子「それじゃあ、またいつか。」



電話を切って、深呼吸をひとつ。

不思議と涙は出なかった。


「あれ?M子?飯出来てるよ。」


「はーい、今行く。」


新しい場所、新しい景色。

ここがわたしのこれから生きる場所。


「さようなら、わたしの夏。」


-終-









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カテゴリー:男女・恋愛  |  タグ:青春, 純愛, メンタル,
 

 
 
 
 

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