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幼なじみとの馴れ初め

 



学校帰りに、何気に公園を見ると、幼馴染の香織がいた。

片隅のベンチに腰掛け、俯いていた。

香織とは、幼稚園から中学まで一緒。

幼稚園時は ほぼ毎日、小学生になっても時々だが、遊んだりする仲だった。

中学になると香織は陸上部に入り、また可愛い顔の香織はアイドル的存在となり、俺と接する事がなくなった。

俺、まぁ不細工な方だから・・・


高校生になると、学校が別々だった事もあって、顔すら合わす事がなくなった。

家、2軒挟んだ隣なのにね。

正直思うのは、生きる世界が違うのだろう。

俺も香織の存在を忘れてたし、きっと香織も、俺なんかの事は忘れてたろう。

公園で見かけるまではね。



泣いてるように見えた。

いや・・・間違いなく泣いてたろう。

声をかけようかと思ったが、ほぼ3年近いブランクがある。

相談しあう仲でもないし、笑いあう仲でもない。

俺は歩を進め、通り過ぎようとしたが・・・

でも、やはり気になってしまった。

俺は自販機でコーラを買い、香織の側に足を進め、黙ってそれを差し出した。


「俊ちゃん・・・」

声は出さなかったが、香織の口がそう動いた。

3年もまともに喋ってないのに、俺、通り過ぎようとしてたのに、あの頃と同じような呼び方をされて、何だか嬉しかった。

でも、手放しに再会を喜べる雰囲気ではなかった。

香織の目が案の定、真っ赤だったから。

暫く黙ったまま、目だけを合わせていた。

「ほらっ」

俺は やっと口を開き、香織に尚もコーラを差し出した。


ところが香織はそれを受け取らず、突然立ち上がると、いきなり俺に抱きついてきた。

可愛い子に抱きつかれ、悪い気なんてしない。

でも俺にしてみたら、女の子に抱きつかれるなんて、生まれて初めての事だった。

香織は俺に抱きつくと、声を上げて泣き出した。

周囲の視線が突き刺さるが、俺、どうしていいか分からなくて。


どうしていいか分からず、ただ立ち尽くした俺の足元に、コーラの缶が転がった。

香織は尚も泣き続けていた。

「ごめん・・・それから・・・ありがと・・・」

泣き止んだ香織は俯いたまま、俺を見る事無くそう言った。

「折角だから・・・これ・・・貰っとくね」

俺の足元のコーラを拾うと、俺に背を向け、

「少し・・・スッキリしたよ」

そう言うと、一人で公園を後にした。

俺は黙って、香織の後姿を見送った。



翌朝、学校に行こうと玄関を開けると、門の所に人影が見えた。

向こうも俺に気付いて、手を振った。

「俊ちゃ〜ん!」

香織だった。

「駅まで、一緒に行かない?」

「別に・・・いいけど・・・」

俺はツレなく答えたが、内心はドキドキだった。

俺がそんなんだから、当然会話なんて弾まない。

俺自身は、「あぁ」とか、「いや・・・」とか返すだけで、色々と話しかけてくるのは香織。

でも俺、何を聞かれたとか、まるで覚えてなくて・・・

ただ、あっと言う間に駅に着いた気がする。

「じゃ〜ね!」

笑って手を振り、反対側のホームに行く香織の事を、昨日と同じように見送った。



学校が終わり、いつものように電車に乗った俺。

いつもの駅で降り、改札を抜けると、そこに香織がいた。

俺を認めた香織は、手を振って微笑むと、俺に近付いて来た。

「一緒に帰ろう!」

そう言うと香織は、ポケットに突っ込んだ俺の右手に、自分の腕を絡めて来た。

俺はまたドキドキしながら、朝来た道を歩いた。

朝のように、「あぁ」とか「いや・・・」しか口にしてない。


「俊ちゃんって共学だったよね?」

「あぁ」

「俊ちゃんは優しいから、もてるでしょ?」

「いや・・・」

「うそ〜っ!絶対もてるって!」

「そんな事ねぇよ!」

俺は初めて、「あぁ」「いや・・・」以外を口にした。

「ごめん・・・怒った?」

「いや・・・」
「怒ってるでしょ?」

「いや・・・」

「あたし・・・迷惑かな?」

「いや・・・」

「静かにしてた方がいいなら・・・黙ってようか?」

「いや・・・俺こそ・・・大きな声出してゴメン。」

謝ったけど、何か重苦しい空気が流れてしまった。



「上田さん(香織)、陸上は?」

初めて俺から、香織に話し掛けた。

しばらく香織は黙ってたが、「やめちゃった」と言うと、なんだか寂しそうに笑った。

俺はそれ以上は、聞いてはいけない気がして、「そう・・・」とだけ返した。

香織は中学時代、100mで県大会3位の実力者だった。

高校は勿論特待生。

そう言えば・・・高校は寮だって聞いた記憶が・・・やめたから、今は家から通ってるんだ。

「かなり・・・いじめられちゃってね・・・」

香織はそう付け加えると、昨日の様に下を向いた。

また、重苦しい空気が流れた。



俺の家の前で香織は、絡めた腕を解いた。

そして俺に微笑みかけながら、「明日も、一緒に行っていい?」と聞いてきた。

俺は「あぁ」と答えた。

「あのさー・・・」

俺が香織に目をやると、「『上田さん』は寂しかったぞ!」と言った。

「昔はさ〜・・・『香織ちゃん』って呼んでくれてたよね?」

「あぁ」

「『香織ちゃん』って呼んでよ」

「あぁ」

「『香織』でもいいぞ!」

「いや・・・」

笑う香織。

「それからさ〜」

「本当にもてないの〜?」

「あぁ」

「ふ〜ん・・・」

その後に、香織が何か言った気がした。

でも、聞き返さなかった俺。

「じゃ、明日ね〜」

香織はそう言って手を振ると、自分の家に入って行った。


翌朝も、香織は門の側に立っていた。

そして夕方には、駅の改札口にいた。

その翌日も、そしてその次の日も。

俺らは毎朝一緒に駅に行き、夕方には並んで帰った。



ある時、中学時代の同級生と鉢合わせた。

「えっ?」と一瞬驚いたそいつ。

「お前ら・・・付き合ってんの?」

その問い掛けに、「へへっ」と笑った香織。

そして俺は、「そんな訳ないだろ!」と強く否定。

「だよな!」


>>次のページへ続く
 
カテゴリー:男女・恋愛  |  タグ:青春, 胸キュン,
 

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