突然の海外赴任
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「違います。そうでは有りません。」
いよいよ私の計画を妻に話す時が来ました。
「それなら俺の気持ちを少しでも楽にしてくれないか?俺の復讐を手伝ってくれないか?」
「復讐?」
「余計な事は聞かなくてもいい。おまえが言えるのは、はいと言うのか、いいえと言ってここを出て行くかだ。」
「はい・・・・お手伝い・・します。」
私が計画を話すと、妻の顔色が変わりました。
「そうだ。俺がしようとしている事は、完全な美人局だ。
智子さえ裏切らなければ、絶対にばれない犯罪だ。俺だって犯罪などしたくはない。
誰が俺に この様な事をしなければならない様にした?」
「・・・・・私です。」
早速 稲垣に電話をかけるように言うと、妻は電話の前までは行ったのですが、受話器を取ろうとはしません。
「俺のやろうとしている事はそんなに酷い事か?
長年俺を騙し続けていた事よりも酷い事か?
旦那が遠い国で、家族の為に一生懸命働いている間、他の男に抱かれて涎を垂らし、腰を振っていた事よりも酷い事か?」
妻は、ようやく私の指示通りに電話しましたが、話し方が余りにもぎこちなく、その上 途中で泣き出したので、ばれないか心配しましたが、それが返って稲垣の心を揺さぶったようです。
「奴を騙すのが泣くほど辛いか?俺を騙し、裏切る事は平気で出来たのに。」
「違います。」
「まあいい。それより奴は何と言っていた?」
「そんなに辛ければ離婚して、私の所に来いと言われました。」
「それが嬉しくて、嬉し泣きだったのか。」
「違います。あなたに、この様な事までさせてしまう事が辛かったのです。」
「本当か?それよりも金曜日はどうなった?」
「会う約束をしました。ただ、あなたに言われた様に彼のアパートでは無くて、ホテルのロビーで会う事になってしまいました。」
稲垣は、私を警戒しているのでしょうが、まさか妻が この様な事をするとは、微塵も思っていないはずです。
妻に無理やりさせている私でさえ、私の好きだった妻は、決してこの様な事は出来ない女だったと思っているのですから。
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稲垣の仕事の都合で、夜の8時に待ち合わせているのですが、まずはホテルか その近くで食事をするにしても、アパートで会うのとは違い、
その後の行動が読めない為に私が見失った時の事も考えて、どこかに移動する時は、その都度トイレからでも連絡を入れるように言って有りました。
2人で会わないという約束だったので、本来ならロビーに2人でいる所に乗り込めば充分なのですが、2人だけになった時に乗り込んだ方が、より効果が有ると思ったのです。
稲垣は警戒して、最初は辺りに気を配るだろうと思い、妻よりも少し遅れてホテルに行き、その後2人を尾行する計画だったので、
今日は定時に退社するはずが、この様な時に限って余分な仕事が入り、退社出来たのが8時になってしまいました。
しかし、少しはロビーで話をするだろうし、その後は食事に行くと思っていたので 安心していたところ、会社を出るとすぐに携帯が鳴り。
「彼に、このホテルに部屋をとっておいたので、今から そちらで話そうと言われましたが、私はどうしたら良いですか?」
平日でないと、出張に行っていて私が不在だと騙し難い事や、翌日が休みで金曜日の方が開放的になれる事などを考えて この日にしたのですが、それが裏目に出てしまい、計画を断念する事も考えました。
しかし、妻から悩みを聞いて欲しいと言っておいて、ここで不自然に妻が帰ると言い出しては、稲垣は警戒して、もうチャンスは無くなるかも知れません。
「奴の言う通りにしろ。但し、奴が迫ってきても上手く逃げて、絶対に身体に触れさせるなよ。」
私はホテルに急いだのですが、早く着けたとしても3、40分はかかってしまいます。
ホテルに行く間、私の脳裏には、稲垣が妻をベッドに押し倒している姿が浮かびます。
妻に嫌悪感を持っていて、私は触る事すら出来なくなっていましたが、それでも稲垣に触れられる事は許せません。
稲垣だけで無く、もう二度と私以外の男に触れられるのは嫌なのです。
計画では常に私が近くに居て、2人だけになれる場所に入ったら すぐに妻に電話をかけ、2人で出て来るように言って、稲垣に事実をつきつける予定だったのですが、これでは私が到着するまで、何か有っても止める事が出来ません。
悪く考えると、稲垣に抱き締められてキスをされ、今の辛い立場が嫌で また稲垣に寝返り、この計画を話してしまっているかも知れません。
気は焦るのですが、それとは逆に、タクシーに乗ったのが裏目に出て、工事渋滞などで1時間も掛かってしまい、ホテルに着いて すぐに妻の携帯に電話をかけたのですが、妻が出る事は有りませんでした。
フロントに稲垣の部屋を尋ねたのですが、教えてもらえる訳も無く、気が付くと私は家路に着いていました。
実家に預けていて娘もいない真っ暗な部屋の中で、何も考えられずに座っていましたが、何も考えてはいないはずなのに、何故か涙だけが溢れて止まりません。
少しして、人の気配を感じて そちらを見ると、暗がりの中に妻が立っていました。
「あなた・・・・私・・・・・・・。」
「帰って来たのか?泊まってくれば良かったのに。俺が抱いてやれない分、奴に朝まで可愛がってもらえば良かったのに。」
私に有るのは絶望感だけで 不思議と怒りは無く、力無い小さな声で話していたと思います。
「ごめんなさい。私、抵抗しました。必死に抵抗しました。でも・・・・・。」
「いや、別にいい。これは俺が仕組んだ事だ。それより気持ち良かったか?気を遣らせてもらえたか?」
「いいえ、最後まではされていません。あなたからの電話でひるんだ時に、このままでは、ばれてしまうと言って逃げてきました。本当です。」
「それなら、どこまでされた?キスは?」
「・・・・・・。」
「裸にされたのか?乳首を吸われたか?」
「・・・・・・・・。」
「最後までいかなくても、指ぐらいは入れられたとか?」
「・・・・・・・・・。」
「全然感じなかったのか?下着を見せてみろ。」
「・・・・・・それは・・・・・・。」
私からの電話で稲垣がひるんだのではなくて、妻が我に帰ったのかも知れないと思いました。
「でも、もう彼に気持ちは有りません。
彼に抱きつかれた時 嫌だと思った。
あなたを もう裏切りたくなかった。
ずっと抵抗していたけれど、身体が・・・・・身体が・・・・・・・。」
妻の話が本当だとすると、あと10分私の電話が遅れていたら、最後まで行ってしまい、そうなると今日、妻が帰って来る事も無かったかも知れません。
「今回の計画を奴に話したのか?」
「話していません。本当です。あなた、ごめんなさい・・・・・ごめんなさい・・・・・・・。」
私は、稲垣に電話をしましたが、これも怒る事無く、淡々と話していたと思います。
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次の日、稲垣は弁護士を伴って私の家にやって来ました。
「約束の違反金は この前と同じ口座に振り込んでくれればいい。話は以上です。お帰り下さい。」
「その事ですが、今回の事は話が出来過ぎている。出張に行っているはずのご主人がいたのもおかしい。もしかしたら、これは・・・・・・・・。」
「つまり、私が妻に この男を誘惑わせたという意味ですか?そう思うのなら訴えて下さい。それで結構です。
妻の私に対する気持ちに自信が持てず、出張だと嘘をついて、妻を罠に掛けたのは事実です。
その結果がこの有様です。もう何もかもが嫌になった。もう生きているのが辛い。好きにして下さい。」
「相手を疑うのも私の仕事です。そういう見方も出来るというだけで・・・・そう言わずに。」
怒るでも無く、呟く様に話す私が不気味だったのか、弁護士は焦っている様でした。
「稲垣さん、昨夜は妻がお世話になりました。
妻を抱いてくれたみたいですね?妻は、喜んでいましたか?
妻は無理やりされたと言っていますが?それでは、まるで強姦だ。」
「待って下さい。私は、ただ話をしていただけだと聞いている。稲垣さん、その様な事が有ったのですか?」
「・・・・いいえ・・・・。」
私は妻を呼び、
「稲垣さん。もう一度、その様な事が有ったのか無かったのか答えて欲しい。」
「・・・・・有りましたが・・・決して無理やりでは・・・・・同意の上で・・・・・。それに、最後まではしていません。」
妻の言った、最後まではされなかったと言うのは本当のようですが、私には妻が感じてしまったた事が気になっていました。
「そうですか。肉体関係に近い事は有ったようですね。
しかし、強姦と言うのは どうでしょう?
分別の有る大人の奥様が、ホテルの部屋までついて行った。
しかも以前は不倫関係に有り、会おうと言い出したのも奥様からです。
多少強引なところが有ったとしても、はたしてそれが強姦と言えるかどうか。」
「強姦では無く、強姦未遂になるのかも知れませんが、2人きりの密室で証人がいない事を良い事に、事実を隠し通すおつもりですか?
訴えるも、訴えないも妻の問題なので、別に私にはどうでも良い事ですが・・・・・・。」
すると弁護士は少し待って欲しいと言い、稲垣を連れて外に行ってしまいました。
「今回の事は、された、していないで水掛け論になってしまう。
ただ明白なのは約束を破って2人で会っていたという事です。
本来は、奥様の過失も大きいので満額は無理かと思いますが、約束の1千万をお支払い致しますので、それで納得していただけませんか?」
「1千万は当然です。
約束を破ったら、妻と合わせて1千万と決めた訳ではない。
妻には別に相応の償いをさせます。
本当は、お金などどうでもいい。
お金よりも この男を殺したい思いが強いのですが、娘の事を考えると、まだ刺し違える決心がつかない状態です。」
「少し待ってくれ。それは完全に脅迫ですよ。その言葉だけでも犯罪だ。」
「そうですか。それなら私は罪に問われなければならない。どうぞ訴えて下さい。もうどうなってもいい。
今後 生きていたところで、人生に何の意味も無いかも知れない。」
弁護士は私を責めていたと思えば、今度は宥める様に、
「そう悲観的にならずに、冷静になって下さい。
最初に疑う様な発言をしたのは、仕事上 色々なケースを念頭に置いて進めなければならないからです。
私は、そういう事も有り得ると一般的な話をしただけで、その事でも傷付けてしまったとしたら、私の不徳の致すところです。許して下さい。
奥様の件は、私は相談者を擁護する立場に有るので、稲垣さんを信じて、強姦の様な事は無かったとしか言えない。
しかし双方の利益を考えれば、示談にするのが好ましいと思います。どうでしょう?」
すると稲垣は弁護士に対して不満を露にし、
「そんな・・・・・。先生は私の代理人だろ。」
「稲垣さん。あなたは私にも、奥様とは二度と会わないと約束してくれましたよね?
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