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三十路の喪女に彼氏ができたときのお話
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143 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:53:26.79 ID:LZSY7jKs.net
「そんなこと言えば、私なんか思い込みで生きてきた典型例ですよ。

Mさんが何人も彼女作ってきたのだって、たぶんそう。


Mさんは、人間関係の基礎となる親子関係が彼一人だけ見捨てられることで成り立っていました。

だから彼には、人間関係とは相手から見捨てられて一人ぼっちでいることだ、という観念が植えつけられているんだと思います。

でもずっと見捨てられ続けた彼は、もう人から見捨てられることには耐えられない。

自分が見捨てられないために一番いい方法は見捨てられる前に、自分から相手を見捨ててしまえばいい。

それがMさんの一年タイマーの正体だと思います」



144 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:53:59.45 ID:LZSY7jKs.net
「彼には、お付き合いの内容は、あまり重要じゃないのかもしれません。

"自分は見捨てられなかった"という事実だけが、彼に安心感を与えているんでしょう。

そして そうやって別れた結果、親に教え込まれた人間関係である「一人ぼっちでいる」という状態を維持することもできるわけです。

相手に別れる気があるかないかは、彼にとって問題ではないんです。

自分の中の、"見捨てられたら どうしよう"という不安に突き動かされて、"教えられたとおり、自分は一人でいるよ"と見てもいない親に証明してるだけ。

それは言ってしまえば、Mさん一人の思い込みによる妄想です。

彼は、自分が作り出した妄想に縛られて、一人で悩んでいるんです」



145 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:55:08.36 ID:LZSY7jKs.net
「喪子さん、人を束縛するのはね、社会とか規則とかよりも圧倒的に、自分自身なことが多いんです。

だけど そうやって自分で自分を束縛しないと、生きられない人生もあるんです。

大げさに聞こえるでしょうけど、それが生きる術になってしまう人もいるんです。

Mさんにとっては、自分を存在価値ナシというレッテルで束縛することが きっとその環境を一人ぼっちで生き抜くための術だったんでしょう。

だから、Mさんのレッテルを無理矢理剥がして変化を迫るのは彼に死ねと言ってるのと同じになる可能性があるんです。

だって彼は、いまだに自ら一人ぼっちになって生きていこうとしてるわけですから。

お二人には酷でしょうけど、Mさんは、誰かと仲良くはなれても共に生きることはできない人なんですよ。

自分の妄想の世界の中で、目の前にいもしない親に忠誠誓って生きてるんです。

だけど、それこそが、お二人が大好きなMさんなんです。


人が人を変えることはできません。

自分しか、自分を変えられる人はいないんです。

できるのは、相手の存在をそのまんま認めることです。付き従うでも、巻き込まれるでもなくて。

私は、そうやって相手を尊重しあうのが、愛なんじゃないかなって」






147 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:56:19.79 ID:LZSY7jKs.net
それから私は本やネットで共依存やアダルトチルドレンのことを夢中で調べまくった。


何度も書いてるので口説いようですが、私はM君の優しさが好きなんです。

だけど いろいろ調べるうちに、そんな彼の優しさも もしかしたら生い立ちに影響を受けてるのかも?とわかってきた。

M君の優しさは、例えば記念日に高価なプレゼントをくれるような目立ったアピール性のあるものじゃあない。むしろそういうのには無頓着なほう。

だけど、ちょっと疲れてたり落ち込んでたりを、こっちが何も言わないのに気づいて、あったかい飲み物を差し出してくれるような そういうほっとするような優しさが、彼にはあるんだ。

でも そんなのも、ものすご〜くイヤな言い方すれば 子どものころから大人に気を遣ってきたせいで、人の顔色を伺ってご機嫌をとるのが上手い、ということになっちゃう。



148 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:56:48.39 ID:LZSY7jKs.net
だから、そこを殊更にありがたがるのは、果たしていいのか悪いのかがわからない。

でもでも、やっぱりそれは彼の長所の一つだし、私には大きな魅力だ。

何に影響を受けてのことであっても、それだけは否定できない。


そんなふうに見ていくと、何が正しいのか間違ってるのか、さっぱりわからなくなってしまった。

Sさんが言った、相手の存在をそのまんま認めるって案外難しいんだな…とぼんやり感じた。

でも、それでやっと気づいた。

どの本にもどのサイトにも、私とM君は出てこないんだ。

やっぱり私は、M君と向き合うことでしか私たちの関係を理解することはできないんだ…。



149 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:57:20.86 ID:LZSY7jKs.net
いろんなことに自覚のないM君と付き合うということはハラスメントを受ける可能性がある、ということだった。

でも、最初のうちは保っていた緊張感も日々の付き合いの中で、だんだんと薄れていった。

私たちは相変わらず、ゲラゲラ笑いながら楽しく過ごすことができていたんだ。


O君宅でのことは、一切話さずにいた。

どう話せばいいのかわからなかったし、何よりも、話すことで今の関係が崩れてしまうのが怖かったんだ。



150 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:58:28.28 ID:LZSY7jKs.net
なんとなくそうやって、何もなかった振りで自分を誤魔化しながらやっていた、ある日。

M君の部屋へ遊びに行くと、レンタル屋さんの袋があるのを発見した。

借りるより買う派の彼にしては珍しい。

何かオススメでも借りてきてくれたのかな?


「ねえ、これ何借りてきたの?」

「あ、それはちょっと」

袋に手を伸ばすと、私より先にM君が袋を押さえた。

「おやおや〜?ひょっとして、肌色率の高い映画ですか〜?」

中身は洋画のDVDだった。

実験的な演出が面白そうだったし、M君もまだ見てないとのことなので一緒に見ようと言ってみたけど、彼はあまり乗り気じゃなかった。



151 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:58:50.85 ID:LZSY7jKs.net
「内容暗そうだしなー。今見るのには、どうかなあ」

「いーじゃん。たまには二人で落ち込もうぜいw」

と、押し切って見始めたんだけど。M君の言ったとおり、ものすごく暗くて救いがない映画だった。

あらすじをかいつまむと、

ある村に逃げてきた正体不明の女を、村人たちがかくまう。

女は恩を感じ、村人たちのお手伝いをしながら、村にとけ込んでゆく。

でも、女がマフィアに追われているとわかってから村人は女をかくまう代償をつり上げていき

やがて女は、男たちに体を弄ばれるまでに追い込まれる。


だけど、女を追っているマフィアとは、じつは彼女の父親だった。

父親に救い出された女は、迷ったすえに村人を全滅にしてしまう…

という話。



152 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:59:18.92 ID:LZSY7jKs.net
ひえ〜、なんじゃこりゃ、後味わる〜、と思っていたら

M君が無言で立ち上がってトイレに行った。

………………………。

………………………?

……………………あいつ、吐いてる!?


「どどどどど、どーしたの?ひょっとして、お昼に当たった!?」

その日の昼食は私が作ったので、ちょっと焦った。

「ごめん、違う…酔った…」

「あ、映像酔い?」

お酒は飲んでなかったし、前に映像酔いするって言ってたから、そっちかと思った。

でも、酔うような映像、どっかにあったっけ???

「映像じゃなくて………ストーリーがダメだった…」

「えっ、そんな………なにを繊細なことを!」

「俺が一番びっくりしてるよ…」





153 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:59:31.70 ID:kzcuiiED.net
ドッグけばええや


156 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:01:05.41 ID:LZSY7jKs.net
>>153




154 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 20:59:45.60 ID:LZSY7jKs.net
それからM君はぐったりしてしまった。

帰ろうか?と聞くと、まだいてほしい、と言われた。そんなことを言うのも、珍しいことだった。

しかたないので、M君が回復するまで、なにが彼にダメージを与えたのかを考えていた。

暴力シーンはあったけど、そんな過激だったわけじゃない。

第一、M君は結構グロ耐性はあるほうだから、あれくらいで吐くわけないし…

私が悶々としているうちに復活したM君は「口直しに他のものでも見るかー」と言いだした。


「え、ちょっと待って。あの映画の、どこがそんなにダメだったの??」


「ん?別にダメだったわけじゃないよ。ちょっと疲れてたのかな。

さてどうしようか、これ返して、何か借りてこようか」


………ちょっと疲れてると、吐くのかおまえは。

また いつもの誤魔化しが始まったようだった。全然違う話をし始めた彼に、置いてきぼりにされた気分になる。



155 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:00:40.27 ID:LZSY7jKs.net
「…ねえ、私、結構びっくりしたんだよ?何か理由があるのなら、教えてほしいな」


「何もないよ。びっくりさせてごめん。でも、本当に大丈夫だから」


「………おまえが大丈夫でも、私が大丈夫じゃねーんだよバカヤロー」


「なんだかやけに食いつくね…カッコ悪いから、早く忘れてもらいたいんですが」


「M君は、なんだかやけに誤魔化すね。それって、私には話せないってことなの?」


「うーん…別に、わざわざ話して聞かせるようなことじゃないんだよ」


「………いまM君、うぜえって思ってるでしょ」


「なんだそりゃ。思ってないよ」


「だけど、うざくしたくもなるんだよ」


「いや聞けよ。うざいなんて思ってませんって」


「だってM君はいつも、私にはなんにも話してくれないんだもん」


「……え」



157 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:01:40.90 ID:LZSY7jKs.net
「誰にだって話したくないことがあるのくらい、わかってるさ。

だけど、こんなになんでもかんでも話してもらえないとなんだか私はM君にとって、取るに足らない存在なんじゃ?

みたいな気がしてきちゃうんだよ」


「…そっか。俺、自分のこと話すの、あんまり得意じゃないからな…

そんな気持ちにさせてるとは思わなかった、ごめん」


「ううん。話してもらっても、私に何ができるわけじゃないからエラそうなことは言えないんだけどさ」


「そんなことはないよ」


「まっ、ちょっとそんなわけで、鬱屈しちゃってただけだから特にゲロった理由が聞きたいわけでもないのさw」


「………別に、話したくないってわけじゃないんだ。ただ、どう話せばいいのかがわからなくてさ…」


「そうやって話さないでいるうちに、きっと本当に話せなくなっちゃうんだよ。

そしてある日、僕は自分が思っていることの半分しか語ることのできない人間になっていることを発見した。やれやれ。」


「黙れ村上春樹。わかった、この際だからちゃんと話すよ。

………俺、あの主人公の女のことを、昔の自分に重ねて見てたんだ」


あ、大事な話が始まる、と思った。





>>次のページへ続く





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