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妻が隠れて喫煙するようになった理由
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問いただせば簡単に済む問題も、自分が躊躇した瞬間から妻に対する疑いの形に変わって行った。
疑いを解決する方法は色々有るのかもしれない、灰皿を見つけた時に妻に問い詰める方法、或いは吸っている現場を押さえる方法。
いずれにしても、妻がガラムを吸っていた事は明白であり、この段階で私の中には妻の素行に興味が移っていたのかも知れません。
妻は長女の出産を期に一度、勤めていた会社を退職したが、長男が生まれてから少しすると、前の上司の薦めもあり派遣社員の形で、また同じ会社に勤めていた。
その会社は、そこそこ名の知られた観光会社である、二度目の時は経験も評価され、添乗の仕事もある事を妻は私に納得させていた。
元来家に閉じこもっているのが、似合うタイプの女性ではないと思っていた私は、妻の仕事に口を挟む気はなかった。
行動を起こすでもなく、数日が過ぎたある日、仕事も速めに終わった私は同僚の誘いも断り、妻の勤める会社の近くに私は足を進めていた。
妻の素行が知りたいという私の気持ちは、気づいた時には探偵の真似事をさせていました。
町の目貫通りに面した妻の会社は人道通りも多く、人並みの影から様子を伺うにはさほどの苦労は無かった。
午後6時頃現場に着いた私は、15分位でしょうか、探偵気取りで道路の反対側にある妻の会社の出入り口に神経を集中していると、突然聞きなれた女性の声で、私は出入り口から目を離すことになった。
その女性は、妻の会社の同僚の佐藤さんでした。
「奥さんと待ち合わせですか?」
突然の会話に、答えを用意していない私は多少狼狽していたことでしょうが、仕事の関係上帳尻を合わせて会話するのは容易でした。
「たまたま近くに居て、仕事が速く終わったので女房を脅かしてみようかと思って」
「大分待ったんですか?」
「そんなでも無いですよ、今来たばかりです。」
「そうなんだ、でも連絡すれば良かったのに、奥さんもう帰りましたよ」
「そうなんですか。」
「今 私と別れたばかりですよ、そこの喫茶店で。」
新婚当時、妻がまだ正社員の頃は何時も夕方6時ごろに会社に迎えに行きデートをした記憶があった私は、固定観念のみで行動を起こしていた。
「あの頃とは違うんですよ、奥さん派遣なんだから残業はあまりしないのよ。」
「そうなんだ、昔の癖が抜けなくて。」
「お熱いことで、ご馳走様。」
「今追いかければ、駅で追いつくかも?」
「良いんです、別に急に思いついたことなんで。」
多少の落胆を感じながらも、私は好期に恵まれたような気になって会話を続けた。
「佐藤さんはこれからどうするんですか?、もう帰るんですか。」
「特に用事もないし、帰るところ。」
「この前飲んだの何時でしたっけ?」
「大分前よ、2ヶ月位前かな?、武井君の結婚式の2次会以来だから。」
私たち夫婦は、お互いの会社の同僚や部下の結婚式の二次会には、夫婦で招待を受けることが多く、その時も夫婦で参加し、三次会を私たち夫婦と佐藤さんや他に意気投合した数名で明け方まで飲んだ記憶が蘇った。
「あの時は、凄かったね?」
「奥さん凄く酔ってたみたいだったし、私には記憶がないと言ってましたよ。」
「凄かったね、何か俺に不満でもあるのかな?」
頃あいを見た私は、本題の妻の素行を探るべく、佐藤さんに切り出した。
「もし良かったら、ちょっとその辺で飲まない?」
「二人で?、奥さんに怒られない?」
「酒を飲むくらい、この間の女房のお詫びもかねて。」
「それじゃ、ちっとだけ。」
とはいえ、私は妻帯者でり、あまり人目につく所で飲むのは、お互い仕事の関係から顔見知りの多い事もあり、暗黙の了解で、人目をはばかる様に落ち着ける場所を探していた。
「佐藤さん、落ち着ける場所知らない?」
「あそこはどうかな、奥さんに前に連れてきて貰った所。」
佐藤さんは足早に歩を進めた。
妻の会社から10分位の所に、幅2メートル程の路地の両脇に小さな店が並ぶ飲み屋街の奥まった所に、その店はあった。
店の名前は蔵。
入り口のドアの脇には一軒程の一枚板のガラスがはめ込んであり、少し色は付いているものの、中の様子が見えるようになっていた。
店の中は、喫茶店ともスナックとも言いがたい雰囲気で、マスターの趣味がいたる所に散りばめられた店という感じで、私には、その趣味の一貫性の無さに理解の域を超えるものがあったが、席に着くと変に落ち着くところが不思議だった。
とりあえずビールであまり意味の無い乾杯から始まり、結婚式の二次会の話で盛り上がり、一時間位して酔いも回った頃。
私はおもむろに、女房の素行調査に入った。
「佐藤さんタバコ吸う?」
「吸ってもいい?」
「かまわないよ、どうぞ。」
「奥さん旦那さんの前で吸わないから、遠慮してたんだ」
あっけなく妻の喫煙は裏づけが取れた。
にわか探偵にしては上出来であろう結果に、一瞬満足していたが。この後続く彼女の言葉に私の心は更なる妻に対する疑惑が深まっていった。
「そういえば、女房はガラム吸ってるよね?」
「でもね、正直言って私は好きじゃないのよね、ガラム。」
「ごめん、最近まで俺もガラム吸ってた。」
「私こそごめんなさい、タバコって言うより、それを吸ってるある人が嫌いって言ったほうが正解かな。」
「誰なの?」
「ご主人も知ってるから、いい難いな。」
「別に喋らないから。」
「○○商店の栗本専務さん」
「栗本専務なら私も知ってる。」
栗本専務言うのは、私たちの町では中堅の水産会社の専務で、私も営業で何度か会社を訪問していて面識はあった。
「どうして嫌いなの?」
「栗本さん、自分の好みの女性を見ると見境が無いのよね。私もしばらく、しつこくされたけど、奥さんが復帰してからバトンタッチ。」
「そんなに凄いの?」
「凄いの、そのとき私もあのタバコ勧められたんだけど、それで嫌いになったのかな、あのタバコ。」
「女房も彼に薦められて、吸うようになったのかな?」
「ご主人じゃないとすれば、多分そうでしょうね、奥さんもともと吸わない人だったから。会社復帰してからですもんね。ここの店も栗本さんに教えてもらったらしいですよ。」
そんな会話をしている内に、夜も10時をとっくに過ぎ、どちらからとも無く今日はおひらきとなり、割り勘と主張する彼女を制止し、会計を済ませた私は店の外で彼女の出て来るのを待つ間、一枚ガラスの向こう側に見えない何かを探しているようでした。
その後の私は、仕事も極力速めに切り上げるようにした。かといって家に早く帰るわけでもなく、探偵の続きをしていたのです。
毎日はできませんが、できる限り妻の会社の出入り口を見張り、妻の退社後の行動を掴もうと躍起でした。
この頃になると、喫煙の有無は問題ではなくなっていました。
妻が、もしや浮気をしているのではないか、私の気持ちは一気に飛躍していました。
だかそれが現実のものとなって自分に押し迫ってくるのに、さほどの時間はかかりませんでした。
-------------------------
長男が生まれた頃から、私は妻に対して新婚当時ほどの興味を示さなかったのは事実でしょう。それは妻のほうにも言えることだと思います。
ですが、あのタバコの一件以来、私は妻の言動の細部に渡って、観察集中するようになっていました。
今まで何気なく聞き流していた、言葉が気になってしょうがありませんでした。
妻の行動が気になり始めて、1月程経った頃でしょうか。
それは突然やってきました。
「あなた、今度の日曜休めない?」
「家の仕事か?」
「ん〜ん、私日帰りの添乗の仕事入ったから子供見ていてほしいの。無理かな?」
「何とかしてみる。」
私はとっさに承諾に近い返事をしていました。
私の仕事は、日曜がかきいれどきのような仕事ですが、月に1度位は、土日の休みがシフトで回ってきます。
妻の日帰り添乗という日は、後輩にシフトを交代してもらい、休みを取ることが出来た。
そこで私は考え行動に出ました。
家に帰った私は、妻に予定の日休めない旨を伝えました。
「昨日の話だけど、日曜はやっぱり無理だ、ごめん。」
「そう、お母さんに頼んでみる。」
「すまないな。ところでどこに行くんだ。」
「山形の方よ!」
「誰と、何時から?」
いつもはしない私の質問に、妻は少し怪訝そうに答えました。
「取引先の役員さん達と、社員旅行の下見。」
これ以上の質問を回避するかのように、妻は続けた。
「9時頃会社を出て、夕方までには戻れると思うよ。」
私もこれ以上の質問は、墓穴を掘りかねないと判断し、気をつけて行って来る様に言うと会話を止めた。
-------------------------
当日の朝私は、いつもの時間に家を出て、妻の会社の最寄り駅の駅の公衆トイレの影から妻の到着を待った。
この時点では、また素行調査のいきは脱していないが、8時45分頃着いた電車から妻が降りてきてからは、ただの挙動不審の男になっていた。
日帰りの添乗とは行っても、妻は軽装で荷物も手提げのバック1つだけ。
駅から真っ直ぐ南に歩き、2目の信号を渡って左に曲がって200メートルほど行ったところに妻の会社がある。
時計を見て歩き出した妻は、会社の方向へ歩き出したが、1つ目の信号を左に曲がり、目貫通りの一本手前の道路に入ったのでした。
その道路は一方通行で、角から私が除く50メートル程向こうでしょうか、一台のグレーの高級国産車がこちらを向いて止まっており、妻はその車に乗りました。
その車はおそらく数秒後には、私の居るこの交差点を通過していくだろう、そう思ったとき、重圧に押しつぶされそうになりながら、車内の構成を瞬時に想像していました。
得意先の役員が数名、それに妻が同行で車の大きさから多くても5名位、まさか二人だけということは無いようにと願う自分も居ました。
考えているうちに、耳に車のエンジン音が聞こえて、その車はスピード落とし左折して行きました。
そのとき車の中には、妻が助手席に一人、後部座席には誰も居らず、運転席には私の心のどこかで、そうはあってほしくない人間の顔がありました。
そうです、やっぱり栗本です。
左折しようと減速した車の助手席では、妻が前髪で顔を隠すような仕草して俯いていました。自分の顔を他人に見られたくないという行動に他ならない。
一瞬私は吐き気を覚えました、何故かは分かりませんが次の瞬間、冷や汗と同時に歩道の上にしゃがみ込んでいました。
-------------------------
その日曜を境に、私はより確信に迫ろうとするのではなく、逆に妻を自分から遠ざけるになって行ったのです。
時折、通る人たちの冷たい視線を感じながらも、しばらくの間動けずにいた私は、体の自由が戻ると朝近くの駐車場に止めてあった車まで着くと、鉛のような重さを感じる体を、投げ出すように運転席に着いた。
しばらくそのままの状態が続き、その間に何本のタバコを吸ったのであろうか、手にしていた箱にはもう一本も残っていなかった。
疑いを解決する方法は色々有るのかもしれない、灰皿を見つけた時に妻に問い詰める方法、或いは吸っている現場を押さえる方法。
いずれにしても、妻がガラムを吸っていた事は明白であり、この段階で私の中には妻の素行に興味が移っていたのかも知れません。
妻は長女の出産を期に一度、勤めていた会社を退職したが、長男が生まれてから少しすると、前の上司の薦めもあり派遣社員の形で、また同じ会社に勤めていた。
その会社は、そこそこ名の知られた観光会社である、二度目の時は経験も評価され、添乗の仕事もある事を妻は私に納得させていた。
元来家に閉じこもっているのが、似合うタイプの女性ではないと思っていた私は、妻の仕事に口を挟む気はなかった。
行動を起こすでもなく、数日が過ぎたある日、仕事も速めに終わった私は同僚の誘いも断り、妻の勤める会社の近くに私は足を進めていた。
妻の素行が知りたいという私の気持ちは、気づいた時には探偵の真似事をさせていました。
町の目貫通りに面した妻の会社は人道通りも多く、人並みの影から様子を伺うにはさほどの苦労は無かった。
午後6時頃現場に着いた私は、15分位でしょうか、探偵気取りで道路の反対側にある妻の会社の出入り口に神経を集中していると、突然聞きなれた女性の声で、私は出入り口から目を離すことになった。
その女性は、妻の会社の同僚の佐藤さんでした。
「奥さんと待ち合わせですか?」
突然の会話に、答えを用意していない私は多少狼狽していたことでしょうが、仕事の関係上帳尻を合わせて会話するのは容易でした。
「たまたま近くに居て、仕事が速く終わったので女房を脅かしてみようかと思って」
「大分待ったんですか?」
「そんなでも無いですよ、今来たばかりです。」
「そうなんだ、でも連絡すれば良かったのに、奥さんもう帰りましたよ」
「そうなんですか。」
「今 私と別れたばかりですよ、そこの喫茶店で。」
新婚当時、妻がまだ正社員の頃は何時も夕方6時ごろに会社に迎えに行きデートをした記憶があった私は、固定観念のみで行動を起こしていた。
「あの頃とは違うんですよ、奥さん派遣なんだから残業はあまりしないのよ。」
「そうなんだ、昔の癖が抜けなくて。」
「お熱いことで、ご馳走様。」
「今追いかければ、駅で追いつくかも?」
「良いんです、別に急に思いついたことなんで。」
多少の落胆を感じながらも、私は好期に恵まれたような気になって会話を続けた。
「佐藤さんはこれからどうするんですか?、もう帰るんですか。」
「特に用事もないし、帰るところ。」
「この前飲んだの何時でしたっけ?」
「大分前よ、2ヶ月位前かな?、武井君の結婚式の2次会以来だから。」
私たち夫婦は、お互いの会社の同僚や部下の結婚式の二次会には、夫婦で招待を受けることが多く、その時も夫婦で参加し、三次会を私たち夫婦と佐藤さんや他に意気投合した数名で明け方まで飲んだ記憶が蘇った。
「あの時は、凄かったね?」
「奥さん凄く酔ってたみたいだったし、私には記憶がないと言ってましたよ。」
「凄かったね、何か俺に不満でもあるのかな?」
頃あいを見た私は、本題の妻の素行を探るべく、佐藤さんに切り出した。
「もし良かったら、ちょっとその辺で飲まない?」
「二人で?、奥さんに怒られない?」
「酒を飲むくらい、この間の女房のお詫びもかねて。」
「それじゃ、ちっとだけ。」
とはいえ、私は妻帯者でり、あまり人目につく所で飲むのは、お互い仕事の関係から顔見知りの多い事もあり、暗黙の了解で、人目をはばかる様に落ち着ける場所を探していた。
「佐藤さん、落ち着ける場所知らない?」
「あそこはどうかな、奥さんに前に連れてきて貰った所。」
佐藤さんは足早に歩を進めた。
妻の会社から10分位の所に、幅2メートル程の路地の両脇に小さな店が並ぶ飲み屋街の奥まった所に、その店はあった。
店の名前は蔵。
入り口のドアの脇には一軒程の一枚板のガラスがはめ込んであり、少し色は付いているものの、中の様子が見えるようになっていた。
店の中は、喫茶店ともスナックとも言いがたい雰囲気で、マスターの趣味がいたる所に散りばめられた店という感じで、私には、その趣味の一貫性の無さに理解の域を超えるものがあったが、席に着くと変に落ち着くところが不思議だった。
とりあえずビールであまり意味の無い乾杯から始まり、結婚式の二次会の話で盛り上がり、一時間位して酔いも回った頃。
私はおもむろに、女房の素行調査に入った。
「佐藤さんタバコ吸う?」
「吸ってもいい?」
「かまわないよ、どうぞ。」
「奥さん旦那さんの前で吸わないから、遠慮してたんだ」
あっけなく妻の喫煙は裏づけが取れた。
にわか探偵にしては上出来であろう結果に、一瞬満足していたが。この後続く彼女の言葉に私の心は更なる妻に対する疑惑が深まっていった。
「そういえば、女房はガラム吸ってるよね?」
「でもね、正直言って私は好きじゃないのよね、ガラム。」
「ごめん、最近まで俺もガラム吸ってた。」
「私こそごめんなさい、タバコって言うより、それを吸ってるある人が嫌いって言ったほうが正解かな。」
「誰なの?」
「ご主人も知ってるから、いい難いな。」
「別に喋らないから。」
「○○商店の栗本専務さん」
「栗本専務なら私も知ってる。」
栗本専務言うのは、私たちの町では中堅の水産会社の専務で、私も営業で何度か会社を訪問していて面識はあった。
「どうして嫌いなの?」
「栗本さん、自分の好みの女性を見ると見境が無いのよね。私もしばらく、しつこくされたけど、奥さんが復帰してからバトンタッチ。」
「そんなに凄いの?」
「凄いの、そのとき私もあのタバコ勧められたんだけど、それで嫌いになったのかな、あのタバコ。」
「女房も彼に薦められて、吸うようになったのかな?」
「ご主人じゃないとすれば、多分そうでしょうね、奥さんもともと吸わない人だったから。会社復帰してからですもんね。ここの店も栗本さんに教えてもらったらしいですよ。」
そんな会話をしている内に、夜も10時をとっくに過ぎ、どちらからとも無く今日はおひらきとなり、割り勘と主張する彼女を制止し、会計を済ませた私は店の外で彼女の出て来るのを待つ間、一枚ガラスの向こう側に見えない何かを探しているようでした。
その後の私は、仕事も極力速めに切り上げるようにした。かといって家に早く帰るわけでもなく、探偵の続きをしていたのです。
毎日はできませんが、できる限り妻の会社の出入り口を見張り、妻の退社後の行動を掴もうと躍起でした。
この頃になると、喫煙の有無は問題ではなくなっていました。
妻が、もしや浮気をしているのではないか、私の気持ちは一気に飛躍していました。
だかそれが現実のものとなって自分に押し迫ってくるのに、さほどの時間はかかりませんでした。
-------------------------
長男が生まれた頃から、私は妻に対して新婚当時ほどの興味を示さなかったのは事実でしょう。それは妻のほうにも言えることだと思います。
ですが、あのタバコの一件以来、私は妻の言動の細部に渡って、観察集中するようになっていました。
今まで何気なく聞き流していた、言葉が気になってしょうがありませんでした。
妻の行動が気になり始めて、1月程経った頃でしょうか。
それは突然やってきました。
「あなた、今度の日曜休めない?」
「家の仕事か?」
「ん〜ん、私日帰りの添乗の仕事入ったから子供見ていてほしいの。無理かな?」
「何とかしてみる。」
私はとっさに承諾に近い返事をしていました。
私の仕事は、日曜がかきいれどきのような仕事ですが、月に1度位は、土日の休みがシフトで回ってきます。
妻の日帰り添乗という日は、後輩にシフトを交代してもらい、休みを取ることが出来た。
そこで私は考え行動に出ました。
家に帰った私は、妻に予定の日休めない旨を伝えました。
「昨日の話だけど、日曜はやっぱり無理だ、ごめん。」
「そう、お母さんに頼んでみる。」
「すまないな。ところでどこに行くんだ。」
「山形の方よ!」
「誰と、何時から?」
いつもはしない私の質問に、妻は少し怪訝そうに答えました。
「取引先の役員さん達と、社員旅行の下見。」
これ以上の質問を回避するかのように、妻は続けた。
「9時頃会社を出て、夕方までには戻れると思うよ。」
私もこれ以上の質問は、墓穴を掘りかねないと判断し、気をつけて行って来る様に言うと会話を止めた。
-------------------------
当日の朝私は、いつもの時間に家を出て、妻の会社の最寄り駅の駅の公衆トイレの影から妻の到着を待った。
この時点では、また素行調査のいきは脱していないが、8時45分頃着いた電車から妻が降りてきてからは、ただの挙動不審の男になっていた。
日帰りの添乗とは行っても、妻は軽装で荷物も手提げのバック1つだけ。
駅から真っ直ぐ南に歩き、2目の信号を渡って左に曲がって200メートルほど行ったところに妻の会社がある。
時計を見て歩き出した妻は、会社の方向へ歩き出したが、1つ目の信号を左に曲がり、目貫通りの一本手前の道路に入ったのでした。
その道路は一方通行で、角から私が除く50メートル程向こうでしょうか、一台のグレーの高級国産車がこちらを向いて止まっており、妻はその車に乗りました。
その車はおそらく数秒後には、私の居るこの交差点を通過していくだろう、そう思ったとき、重圧に押しつぶされそうになりながら、車内の構成を瞬時に想像していました。
得意先の役員が数名、それに妻が同行で車の大きさから多くても5名位、まさか二人だけということは無いようにと願う自分も居ました。
考えているうちに、耳に車のエンジン音が聞こえて、その車はスピード落とし左折して行きました。
そのとき車の中には、妻が助手席に一人、後部座席には誰も居らず、運転席には私の心のどこかで、そうはあってほしくない人間の顔がありました。
そうです、やっぱり栗本です。
左折しようと減速した車の助手席では、妻が前髪で顔を隠すような仕草して俯いていました。自分の顔を他人に見られたくないという行動に他ならない。
一瞬私は吐き気を覚えました、何故かは分かりませんが次の瞬間、冷や汗と同時に歩道の上にしゃがみ込んでいました。
-------------------------
その日曜を境に、私はより確信に迫ろうとするのではなく、逆に妻を自分から遠ざけるになって行ったのです。
時折、通る人たちの冷たい視線を感じながらも、しばらくの間動けずにいた私は、体の自由が戻ると朝近くの駐車場に止めてあった車まで着くと、鉛のような重さを感じる体を、投げ出すように運転席に着いた。
しばらくそのままの状態が続き、その間に何本のタバコを吸ったのであろうか、手にしていた箱にはもう一本も残っていなかった。
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