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思い出の懐中時計
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「・・・・・・ごめんなさい。でも・・・・・あたし北村さん・・・・・・」

「演技でいい。俺の描いたストーリーに必要な前フリだ。決して北村の恐怖の顔を見ても笑うな。心配する演技だ。いいな!!」

「わかりました・・・・・・やります」

「じゃあ、頼むぞ」



雫メール:兄さん今チャンス

よし。作戦開始だ。



「北村さんこんにちは」

「あ、あなた・・・・!!」

「どうした。クラスメートが一緒じゃ話し辛いか?くっくっく・・・・・・」


しばらく無言の空白が空く。恐らく人の居ない場所に移動したのだろう。


「あなた何者よ!!掲示板のあれあなたでしょ!!許さないから!!」

「おい。お前まだ自分の立場が分かってないようだな。俺はお前の人生の弱みを握ってるんだぞ?イジメのリーダーなんてバカ丸出しだよお前」

「うるさい!!」

「お前のクラスの後ろに掃除道具入れがあるだろ。そこに封筒を入れておいた。この電話を通話状態にしたまま今すぐ見に行け。誰かに見られたらお前学校にいられなくなるぞ?」

「なんですって・・・・・・・!!」

電話口から北村の廊下を走る音が伝わって来る。

「何なのよ・・・・・封筒?あ、これか・・・・・」

「中に二つの写真が入ってる」

「・・・・・・・・これは!!!!」
恐らく校舎に侵入した写真と雪村のリストカットの写真を見て驚愕してるにちがいない。


「駄目!!何でもないから見ないで!!」

電話口から北村の叫び声が聞こえた。雫と小林がうまくやったに違いない。

これで教室にいるものは北村の異変に気が付いたかもしれない。


「見たか?」

「これ・・・・・・この写真・・・・・・!!!」


「お前が校舎に侵入した写真だ。

日付けが右下に記載されてるだろ。ちょうどお前の学校で校舎の窓ガラスが割られる事件が起きた日だ。

お前は知ってるか知らないが、学校は警察に被害届け提出済みだ。

俺がこの写真学校に送りつけるとどうなると思う?」


「や、やめて・・・・・・」


「さらに手首を切ったリストカットの写真だ。これは俺が知り合いの医者から内密で買い取ったものだ。雪村のものだ」

「ゆ、ゆき・・・・・雪村さん・・・・・自殺・・・・しようと・・・し・・・したの・・・・?」

北村の声が震えている。事の重大さを理解したのだろう。


「ああ。別に驚かなくていい。お前の計画通りなんだろ?雪村を殺したいんだろ?」


「わ、わた・・わたし、殺したくなんて・・・・・ない・・・・」


「これをクラス中の皆の家に送りつけてやろうか?雪村が自殺未遂犯したこと知るとどうなると思う?」


「・・・・・・・・・・・・わたし・・・・・」


「間違いなくリーダーのお前のせいにされるよ。お前人殺し。よかったなあ?雪村が根性なしで。失敗してくれたもんなあ?」


「あなた・・・・なんなのよ・・・・・何が言いたいの?」


「写真を処分してほしかったら、10万用意しろ。簡単だろ?どうせ雪村からカツ上げしてんだろ?」


「あたし・・・・・お金だけは取ってない・・・・・・・」


「はいはい。寝言はいいから。じゃ明日またお昼に連絡する」


「ちょっと待って!!お金なんかわたし・・・・・」


ブツッ

電話を切った。

演技とはいえ、心から疲れる。お金は受け取るつもりはない。あくまで北村に恐怖と後悔をさせるため。

15分程して雪村に電話をかける。


「雪村か」

「あ!電話待ってました。あたしびっくりしました・・・・・あんな北村さん初めて見ました」

「どんな様子だった?」

「心から何かに怯えたような感じで、顔面蒼白でした」

「俺の指示は?」

「ええ。あたし、正直北村さんなんかと喋りたくなかったんです。でも、あんな北村さん見てたら演技じゃなくて、本気で心配してる自分に気付いたんです」

「そうか・・・・・」
「何を言ったんですか?」

「それは言えない。ただ、イジメ自体は今日のことで終わると思っていい。

だがまだやる事がある。

お前は北村を自分のできる範囲で慰めてやれ。いいか?無理はしなくていい。今まで自分をイジメてた相手だ。軽く声をかける程度でいい」

「わかりました」

「恐らく明日。最後の仕上にかかる。お前は もう一役かってもらう」

「連絡ください」

「ああ。分かった」


心底疲れた。学食で皆より遅い昼食を食べてると雫と小林が現れた。


「兄さん」

「先輩」

「おう。お前らも何か食べるか?」

「兄さんやりすぎ」

「先輩、北村さんさっき早退しましたよ。顔真っ青であんなの初めて見ました・・・・」

「計画通り」

「計画通りならいいけど」

「明日仕上にかかる。小林に一つ頼みがある」

「何ですか先輩」

「時計を20個くらい用意できないか?できれば この懐中時計に音が似てるやつ」

「いいですけど、何に使うんですか?」

「北村の机に朝全部置いてほしい。電話で北村と話すとき、俺は常にこの懐中時計の音をバックに流していた。恐らく北村は心底恐怖を感じるだろう」

「先輩分かりました」

「千春あたしも手伝う。あしたは早起き」

「うん。雫ちゃん」


学校の帰り公園のブランコに座ってボーっとしていた。

雪村には計画では制御できない一つの鍵となる役割をやってもらう。

あいつがその時どういう行動に出るのかわからない。


でも今日、雪村は北村の事を本気で心配したと言っていた。大丈夫かもしれない。


ポケットから懐中時計を取り出す。

今回の事を通じて本当の意味で宝物になった気がする。

大切にしよう。絶対に。



翌日の朝五時雫に叩き起こされる。

「兄さん」

「雫、早起きだな」

「見つかると計画台無し。今から学校行ってセット」

「ああ。たのむ」

「兄さん今日仕上でしょ。信じてるからね。兄さんを。私は誰も傷付いてほしくない」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「兄さん?」

「俺を信じろ」

「うん」


>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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