十年前から電話がかかってきた
(5ページ目) 最初から読む >>
\ シェアする /
149 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:13:04.91 ID:zH3wHCLa.net
その後 家に帰って布団に入ると、彼女の歌声が頭について離れなかった。
それが何を意味するのかを考える勇気は俺にはなく、そのうち意識がぼやけて眠りについた。
150 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:13:38.32 ID:zH3wHCLa.net
*
「あれ、おーい!」
後ろから望んだ声が聞こえたので振り返った。
「やっぱり、君だ。奇遇だね」
美咲さんは少し息を切らして、俺の方まで走ってきた。
151 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:13:55.30 ID:zH3wHCLa.net
告白決行日、彼女のレクチャーの通りストーカーギリギリの『美容室の前で待ち伏せ作戦』を実行した。
結果、見事成功し、今、俺の隣には美咲さんがいる。
152 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:14:11.61 ID:zH3wHCLa.net
「今、帰りですか?」
わかってるくせに、白々しく聞いてみた。なかなかの演技力だと思うよ。
彼女が歌手を目指すなら俺は役者にでもなろうかな。
うん、わりといける気がする。
153 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:15:50.15 ID:b4mXH4pv.net
「そーだよ。君は?」
「俺は、そこのコンビニまでちょっと。でも大変ですね、こんな遅くまで」
今はもう夜の十時くらいだろうか、学生からしてみれば こんな時間まで仕事なのは遅いと感じる。
「うん、店が閉まっても練習とかいろいろあるからね。でも、好きなことやってるんだから、不満はないよ」
154 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:16:11.41 ID:b4mXH4pv.net
「いいですねそういうの。俺は自分がやりたいこととか全然わからないんで」
彼女にしても俺と同じ歳で もう歌手になるという夢がある。
美咲さんだって美容師という夢を叶えている。
それに比べたら俺は、何がしたいかと決まらずにふわふわ生きてるだけだ。
急にそんな自分が嫌になってきた。
155 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:16:31.91 ID:b4mXH4pv.net
「そんなのこれから決めればいいんだよ。まだ時間はいっぱいあるんだからさ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんだよ」
あっさりそんな風に言われると、余計自分の将来が不安になるんだけど。
でも、今はそれより大事なことがあった。
その後 家に帰って布団に入ると、彼女の歌声が頭について離れなかった。
それが何を意味するのかを考える勇気は俺にはなく、そのうち意識がぼやけて眠りについた。
150 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:13:38.32 ID:zH3wHCLa.net
*
「あれ、おーい!」
後ろから望んだ声が聞こえたので振り返った。
「やっぱり、君だ。奇遇だね」
美咲さんは少し息を切らして、俺の方まで走ってきた。
151 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:13:55.30 ID:zH3wHCLa.net
告白決行日、彼女のレクチャーの通りストーカーギリギリの『美容室の前で待ち伏せ作戦』を実行した。
結果、見事成功し、今、俺の隣には美咲さんがいる。
152 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:14:11.61 ID:zH3wHCLa.net
「今、帰りですか?」
わかってるくせに、白々しく聞いてみた。なかなかの演技力だと思うよ。
彼女が歌手を目指すなら俺は役者にでもなろうかな。
うん、わりといける気がする。
153 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:15:50.15 ID:b4mXH4pv.net
「そーだよ。君は?」
「俺は、そこのコンビニまでちょっと。でも大変ですね、こんな遅くまで」
今はもう夜の十時くらいだろうか、学生からしてみれば こんな時間まで仕事なのは遅いと感じる。
「うん、店が閉まっても練習とかいろいろあるからね。でも、好きなことやってるんだから、不満はないよ」
154 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:16:11.41 ID:b4mXH4pv.net
「いいですねそういうの。俺は自分がやりたいこととか全然わからないんで」
彼女にしても俺と同じ歳で もう歌手になるという夢がある。
美咲さんだって美容師という夢を叶えている。
それに比べたら俺は、何がしたいかと決まらずにふわふわ生きてるだけだ。
急にそんな自分が嫌になってきた。
155 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:16:31.91 ID:b4mXH4pv.net
「そんなのこれから決めればいいんだよ。まだ時間はいっぱいあるんだからさ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんだよ」
あっさりそんな風に言われると、余計自分の将来が不安になるんだけど。
でも、今はそれより大事なことがあった。
156 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:16:52.55 ID:b4mXH4pv.net
それから、他愛もない話をしながら少し歩いて、別れ道に差し掛かった。
「じゃあ、私こっちだから。バイバイ」
「待って!」
その時が近づいてきた。
前に進む時間が。
157 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:17:17.20 ID:b4mXH4pv.net
「どうしたの?」
美咲さんはキョトンとした顔で振り向いた。
「あの……」
なかなか続く言葉が口から出ない。
俺は何を戸惑っているんだろうか。
158 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:17:33.64 ID:b4mXH4pv.net
彼女のことを思い出せば勇気が出る、彼女の声は背中を押してくれる。
はずだった。
それなのに、彼女のことを思い出せば出すほど言葉を出せずにいる。
159 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:17:54.99 ID:b4mXH4pv.net
結局、俺が前に進むことはなかった。
「あの、お仕事頑張ってください。俺の髪を切ってくれる人がいなくなると困るんで」
言いたかった言葉を飲み込むと、適当な言葉が代わりに口からでる。
「うん、ありがと。任せといてよ、君の髪はいつでも私がかっこよくしてあげるからさ」
眩しい笑顔が俺に向けられた。
俺は、その顔を見ることができなかった。
160 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:18:29.10 ID:b4mXH4pv.net
「ありがとうございます、それじゃあ」
「バイバイ」
それだけ言うと俺は美咲さんと別れた。
いや、逃げた。あてもなく逃げた。
昨日とは違い、今日の夜の街は俺を否定しているような気がした。
161 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:18:51.48 ID:b4mXH4pv.net
*
気づくと海にいた。
何をやってるんだ俺は。
その思いだけが頭を駆け巡った。
162 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:20:09.05 ID:b4mXH4pv.net
それから逃げるためなのか、無意識に彼女に電話をかけていた。
誰でもいいから話したかった。
違う、嘘だ。
彼女と話したかったんだ。
それがさらに自分を傷つけるとしても。
163 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:20:26.61 ID:b4mXH4pv.net
コール音が十回を超えても電話は繋がらなかった。
それが彼女が成功したことを意味するなら、俺は喜ばなくちゃいけないはずなんだ。
一緒に前に進もうとした仲間として喜ぶべきなんだ。
164 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:20:41.48 ID:b4mXH4pv.net
それなのに俺の心は怪物に荒らされたようにざわついていた。
彼女が一人だけ成功したからじゃない。
多分これはもっと別の話。
許されないであろう一つの思い。
165 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:21:08.76 ID:b4mXH4pv.net
俺はいつから こんなに性格が悪くなったんだ。自分で自分が嫌になる。なんて言っておけば、まだ大丈夫だと思ってるんだ俺は。
本当は別に嫌になんかなってない。
むしろこの気持ちを正しいものだとさえ思っているのかもしれない。
だから電話をかけようとしているんだ。
そういうところが嫌なんだよ。
166 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:21:28.78 ID:b4mXH4pv.net
ただ、そんな心の怪物はおさまることになる。
十五コール目、彼女の声が耳に響いた。
「はい」
その声を聞いた瞬間俺の心は驚くほどに落ち着いた。
167 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:21:45.28 ID:b4mXH4pv.net
「こんばんは」
「ああ」
彼女は少し泣いているように思えた。
その涙がどっちの涙かはわからなかった。
189 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:19:36.60 ID:3zc+EWgf.net
彼女の告白は成功したのか聞きたいのに、言葉が出なかった。
どんな声で、どんな風に聞けばいいのかわからない。
また怪物が出てきそうだ。
190 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:19:54.86 ID:3zc+EWgf.net
「フラれちゃいました。やっぱりうまくいきませんね」
俺が何も言えないでいると、彼女が精一杯取り繕ったかのような声でそう言った。
それを聞いた瞬間、正直に言うと俺は安心したんだ。
心の底からホッとした。
それは最低な感情で、でも怪物はそんな感情でしか去ってはくれなかった。
191 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:20:27.49 ID:3zc+EWgf.net
「そっか、俺もだよ。本当難しいよな」
何言ってるんだ俺は。告白することすらしなかったくせに。
俺にそんなことを言う資格なんかない、彼女と話す資格なんかないんだ。
192 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:20:43.83 ID:3zc+EWgf.net
「本当ですね。さくらんぼ作戦失敗です」
「そうだな。こういう時、あいつがいてくれると気持ちが軽くなるんだろうな」
「あいつって、前に行ってたタイムカプセルの人ですか?」
「ああ、あいつならなんとかしてくれる気がするんだ」
193 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:21:03.67 ID:3zc+EWgf.net
「そうですか。でも、タイムカプセルって面白そうですよね。私もやってみようかな」
「いいんじゃない。何入れるの?」
「私、日記書いてるんですよ。だから今日のこととか書いて、それを何年かたった時に見て懐かしむんです」
「そっか」
194 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:21:20.83 ID:3zc+EWgf.net
なんでもないような話をひたすら続けた。
お互い会話が途切れないように、ずっと話し続けた。
多分、二人とも分かってたんだと思う。
会話が途切れたら何が起こるかを。
195 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:21:47.42 ID:3zc+EWgf.net
そしてその時が訪れた。
不思議な沈黙。
今まで焦るように話してたのに、急に静寂が場を支配した。
お互いが探り合い、話し始めようとする。
196 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:22:05.66 ID:3zc+EWgf.net
「あのさ」
「あの」
二つの声が重なった。
197 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:22:25.79 ID:3zc+EWgf.net
「あー、ごめん。先どうぞ」
「すみません。そちらからどうぞ」
また重なる。
「いいよ。君から話して」
俺は先に話すのが怖くて逃げた。
198 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:26:02.64 ID:4ZfHDWbX.net
「じゃあ、あの……すみません、私嘘つきました。本当は告白なんかしてません、できませんでした」
なんとなくわかってた。
自分がそうだったからわかるんだ。
あの喋り方、あの雰囲気は前に進めなかった人のものだ。
でも、俺はそれを責めようとは思わない。
いや、責める資格なんかないんだ。
だって俺は、きっと彼女よりもひどい理由で告白ができなかったんだから。
199 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:26:22.70 ID:4ZfHDWbX.net
「うん、ごめん俺も……俺も告白してない。あと一言、一言だせばいいとこで日和ったんだ。怖くなった。本当、ダメだな」
そうだ、本当に俺はダメなんだ。
彼女に先に話させて、安心してから自分も話す。
そして その話した内容すら嘘なんだ。
本当はそんな理由なんかじゃない。
でも、それを言おうともしないんだ。
本当にずるい。
200 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:26:43.16 ID:4ZfHDWbX.net
「あー、やっぱ難しいな。勇気ってそう簡単に出ないよな。失敗したらとか考えちゃうと、怖くて踏み出せない」
「…………」
返事は返ってこなかった。
沈黙は怖い。
だから、俺は話すのをやめなかった。
一人で話し続けた。
201 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:01.38 ID:4ZfHDWbX.net
「あのっ!」
俺の声を遮って彼女が大きな声を出した。
「違うんです……私、違うんです」
「…………」
今度は俺が黙る番だった。
「私が……私が告白できなかった理由は……」
ダメだ。これ以上は聞いたらいけない。
そうわかってるのに、俺に彼女の言葉を止めることはできなかった。
202 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:38.87 ID:4ZfHDWbX.net
「その……先輩に会いに行ったんです。行ったのに、いざって時に、その……あなたの……」
止めなきゃいけないんだ。
でも、やっぱり俺には その涙交じりの声を遮ることはできなかった。
もしかしたら期待しているのかもしれない。
そんなのはダメなのに。
俺は卑怯だ。
203 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:55.16 ID:4ZfHDWbX.net
「あなたの……あなたのこと思い出して、それで……」
「わかってる! わかってるんだ。ごめん」
もう耐えられなかった。
自分の卑怯さに、ずるさに、汚さに。
そして、自分が満足するために俺は これからもっと最低なことを言う。
無責任で最低なことを。
>>次のページへ続く
\ シェアする /
関連記事
easterEgg記事特集ページ
