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十年前から電話がかかってきた
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85 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:45:05.97 ID:+f+v9oqV.net
「なんでって…… 君も言ってたろ、難しいってさ。結局、最初から無理だったんだよ。俺とあの人には違いが多すぎる。君の言う通りだよ」

そう、わかってた。

「それだけで諦めちゃうんですか?」

「十分だろ、不可能に近いんだ。普通なら諦める」

「不可能に近いだけで不可能ではないですよね?」

彼女の言葉の一つ一つが俺の心に刺さった。

諦めたくない俺の心を刺激した。

だからそれを認めないために、彼女の言葉を必死で否定する。

「そんなの詭弁だろ。世の中無理なものは無理なんだ」



86 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:45:21.50 ID:+f+v9oqV.net
「たとえそれが どんなに難しくても諦める理由にはなりません」

彼女は はっきりとした声でそう言った。

俺は昨日まで、彼女は天然でこういう本質を突くようなことを言っているのだと思っていた。

でも、今わかった。彼女はわかってて言ってるんだ。

俺がいま諦めたら絶対後悔すると、俺が本当は諦めたくないと、全部わかってて言ってるんだ。

現に俺は彼女と話してまた、諦めたくないと思わされている。



87 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:45:42.10 ID:+f+v9oqV.net
「それで、どうしますか? 『さくらんぼ作戦』やめますか? 続けますか?」

少し時間をおいて彼女は聞いてきた。

俺の返事は もう一つしかなかった。

「続けるよ、『さくらんぼ作戦』」

「わかりました。これからも よろしくお願いします」

その声はさっきまでの刺すような声と打って変わって明るいものになっていた。



88 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:45:58.42 ID:+f+v9oqV.net
「まず一つ目の問題ですが、これはまあ簡単ですね。美容院以外で会う理由を作りましょう。どこかでばったり会ったとかそんな感じで」

「それ、ストーカーしろってことか?」

「人聞き悪いですねー、別にそういう意味じゃないですよ。ただ、ちょっとつけてみたりするだけです」

「それをストーカーっていうんだよ」

さすがに犯罪者にはなりたくない。




89 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:46:14.95 ID:+f+v9oqV.net
「じゃあ、お店から帰るときに たまたま会ったとかでいいんじゃないですか」

それなら少しは犯罪臭は減ったが、それでもまだグレーゾーンだ。

「とにかく、重要なのはそっちじゃありません。もう一つの方をしっかり考えないと」



90 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:46:35.01 ID:+f+v9oqV.net
恋愛講義はそれから二時間ほど続き、「じゃあ今日はここら辺で」という彼女の合図で終わりを迎えた。

彼女の講義は本当の講義みたいで、学校で授業を受けているような気分だったよ。



91 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:46:52.66 ID:+f+v9oqV.net
「そういえば、結局そっちの話を聞けてないけどいいのか?」

この二時間、俺の方の話ばかりで、磯崎先輩の話は一切できなかった。

「はい、そっちは私がなにか聞きたいことがあったら聞くので大丈夫です」

「それならいいけど」

俺には彼女みたいに誰かに教える技術なんてないので、正直助かった。



92 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:47:26.79 ID:+f+v9oqV.net
「また、明日」といつもの言葉を言って電話を切ると、そのまま眠りについた。



93 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:47:42.39 ID:+f+v9oqV.net


「助けて!」

午前二時、携帯の着信音で起こされ、耳に当てると彼女の大きな焦った声が聞こえた。

どうしたのかと急いで聞いても返事はなく、しばらく息切れのような音だけが響いた。



95 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:48:02.39 ID:+f+v9oqV.net
「すみません、夜遅くに」

少しするとまだ多少息は荒かったが、さっきよりは落ち着いた声で彼女が話した。

「大丈夫か? どうしたんだ?」

彼女のあんなに焦った声は初めて聞いた。

いったい何があったのか、そう思って聞くと、「いや、あの……で……すね」

彼女は言いにくそうに口ごもった。



97 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:48:41.30 ID:+f+v9oqV.net
「実は…… 電話を切った後、テレビを見てたら心霊特集やってまして、それでそれを見た後寝たら夢を見まして、それがすごくて怖くて、それで今日は親が出かけてまして、いなくて、怖くて、その…… 誰かいないかなと思ったら、あなたが思い浮かびまして…… 電話しちゃいました」

さっきまでの講義のスラスラとした話し方からは想像もつかないほど、しどろもどろといった感じでそんなことを話すので、思わず笑ってしまった。



98 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:49:01.66 ID:+f+v9oqV.net
「ひどくないですか、こっちは本当に怖くて……」

「いやごめん、なんかあれだよね、君ってさ、話すたびにイメージが変わるんだよね」

笑ったり、怒ったり、不安そうだったり、からかってきたり、彼女は本当にいろんな顔を見せてくる。

顔を見たことないのにおかしな話だけどさ。




99 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:49:23.49 ID:+f+v9oqV.net
「バカにしてます?」

そう聞く彼女の声も、泣きと怒りが混ざったような声で、またおかしくなる。

「いや、違うよ。ただ君に会ってみたいなと思ってさ。電話じゃなくて、実際に会って話してみたいなって」

彼女が どんな顔で、どんな風に笑うのか、どんな風に怒るのか、どんな風に泣くのか見てみたい。そう思った。


「私もあなたに会ってみたいですね。まぁ、そんなこといっても しょうがないんですけどね」



100 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:50:15.25 ID:+f+v9oqV.net
「それで、その…… もう少しだけ……」

彼女はまた口ごもりながら小さな声を出した。

それが何を意味するのかなんとなくわかったから、今日は少しだけ優しくなろうと思う。

「ああ、わかってる。そっちが切るまで電話してていいから、少し話そっか」

「ありがとうございます」

彼女は少し驚いたようだった。

俺が優しいのは そんなに珍しいんだろうか。

まぁ、それでもいいか。



101 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:51:02.45 ID:+f+v9oqV.net
その後、いろんな話をした。

その話の中でも彼女は またいろんな顔を見せてくれた。

本当に会ってみたいなと思うよ。



102 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:51:25.67 ID:+f+v9oqV.net
結局、俺たちは朝まで話し続けた。

途中からは きっと、怖いとかそういうのは忘れてただ話したいから話してたと思う。

俺の勝手な想像だけどね。



103 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:51:40.66 ID:+f+v9oqV.net


それから、毎晩彼女に電話をかけて恋愛講義を受けた。

そして初めて電話が繋がってから八日がたったある日、彼女がついに決定的な言葉を口にした。



104 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:52:13.06 ID:+f+v9oqV.net
「明日、告白しましょう」

満を持してというような感じでされた その提案に俺はただ従った。



105 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 22:52:45.50 ID:+f+v9oqV.net
「いよいよだな」

「はい、私は明日から学校が始まるので先輩に会えますし、あなたは明日が春休み最後の日です。決着をつけるなら明日が一番です」

「そうだな」

ただ、バカみたいに肯定した。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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