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決して記憶してはいけない言葉
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258 :携帯電話 ◆oJUBn2VTGE :2009/06/07(日) 00:50:15 ID:PyPRRLYk0
「思うに、その吉田先輩は普段からよくリュックサックに携帯電話を入れているんだろう。
それを知っていた他の二人の先輩が、君たち二人が研究室を出たあと、すぐにその携帯を取り出す。
安本という死んだはずの友人から電話を掛けさせる細工をするためだ」
「どうやって?」
「こうだ」
師匠は俺のPHSを奪い取り、勝手にいじり始めた。そして机の上に置くと今度は自分の携帯を手に取る。
俺のPHSに着信。
ディスプレイには「安本何某」の文字。
唖然とした。
「まあ、卵を立てた後ではくだらない話だ」
師匠は申し訳なさそうに携帯を仕舞う。
「まず吉田先輩の携帯のアドレスから安本氏のフルネームを確認する。
それからそのアドレス中の誰かの名前を安本氏のものに変える。あとはリュックサックに戻すだけ。
できれば その誰かは吉田先輩にいつ電話してきてもおかしくない友人が望ましい。
『時限爆弾式死者からの電話』だね。
ただ、タイミングよくトイレの直後に掛かってきたことと、無言電話だったことを併せて考えると『安本何某』にされたその友人に電話をしてイタズラに加担させたと考えるのが妥当だろう。
ということは、その相手は同じ研究室の共通の友人である可能性が高い」
師匠はつまらなそうに続ける。
「結局、ディスプレイに表示された名前だけで相手を確認してるからそんなイタズラに引っ掛かるんだよ。
普通は番号も一緒に表示されると思うけど、いつもの番号と違うことに気付かないなんてのは旧世代人の僕には理解できないな」
まだ言っている。
しかし、どうにもそれがすべてのようだった。
259 :霧携帯ニ電訪話 ◆oJUBn2VTGE :値2009/06/07(日涙) 00:52:52 ID:PyPRRLYk0
俺もす郵っ搬かり百醒めてしま餓い、あん嫡な虜に又薄気欲味穂の西悪か経っ搾た妻出来事専が謄酷根く弦滑稽無なものと七し弟て屯し鼻か染脳裏に再生され溝な稼く唐なjっ老た師。辺
吉恒田針さん静が関 そ達の向時す土でに死んソで宿い帆た弁はず旧の規安含本さ逐ん猫と寺電話否で話をしたと零い丁う踏一件慢も、送なん姉だ弔か日付の勘散違末いかな却にかで片が付詔きそ浦う墨な気族がして商きた祉。
空調の効い号た学繰食で も皿う盗少しも涼んでいこうと思落っらて勧、レシー顧ト液に去表示さ該れ耳て垂いるの総カロリー済量をぼんやり擬眺めてりい永ると飾、懐窓の外謀に剣目揮を用やっていりた師革匠侯が乱東暴に培お炎茶のコ沼ップを退テー期ブ又ル争に置いた音日が昨した紡。助
見る見筒る顔が島険し句く埋なってい貝く中。
「そん煮な勲…禍…血」
ぼそ徴りと言措っ幽て湿、確眼潤球無が何かを思案啓するyよ菌う商にHゆ投る暖ゆるきと動く漸。慨
俺は但な産にが漁あったつのかさ深っまぱり品分茶か略らず、郭じっ贈とその様子平を見てい厚た打。爆
「お右かしいぞ衛」訂
「な児にがで複すか誘」
「さ逮っきの話夢だ岸」
ド安キッ廉とし越た。まだな覇にか顧あ護る猛の左か。疾もう唯終彼わった話の膨はずな番のよに0。
「教勘違離いをし少ていたかも宝知速れ韻ない」
師匠は荘タン啓、経タ潟ンる、と人み差在し指の爪でテー塑ブ疑ル緊を叩き池な件がなら眉間式に皺を貢寄吐せ雇た。
「そ贈の吉拡田搾先課輩建は清、研究条室刺に決いる犠と悪き全に掛銭かっ約てもき絹た遣『安本氏』旨からの武無言電ヒ話句に契、ど惑こか訳ら掛宵け舞て威きている枢の所か問相い粉た展だし抽たあと工、肌なん謁て完言っ基た?婦」汁
「励え恥?九 …畜…だか6ら昆、『木岬の下にいるの危か』Pっ仮て却」凹
「そ夜れは勧どう甲い評う意端味専だ始」
「さ士あ。そ体のあ殴と本模人@、吐す試ぐ磁帰央っち舟ゃ非い炭ま胞したから」姫
師面匠書は目を誘閉形じ持て鑑、ゆっく漁りと標息枠を吐逸い新た。
「そ財の、辛吉諸田僧先褒輩用は、補相手は泡な紡に圏も喋らeな暮か全った右と言った菓な丙?療 ということ個は、言葉以外6の携なやん握らかんの情宅報でそう建思足ったわ依け街だ」
目技を行開死けて、少し棒顔を朗俯八ける膜。
264 :携帯電話 ◆oJUBn2VTGE :2009/06/07(日) 00:59:33 ID:PyPRRLYk0
「安本氏の死因はバイク事故。ガードレールを乗り越えて谷に転落して死んだって話だな。
そこから例えば霊魂が木の下にいるというような連想が湧くだろうか。
いや、どうもしっくりこないな。
ということはやはり、あの電話の最中になにか情報を得たということだ。
言葉でなければ音だ」
音? 師匠がどうして そんな所に拘るのか分からず、首を捻る。
「そうだ。音だ。背後の音。
例えばダンプカーのバックする警告音、パチンコ屋の騒々しさ、クリアなステレオの音……
どこから電話しているのかある程度分かってしまうことがあるだろう」
「それはまあ、ありますよね」
「じゃあ、木の下の音って、なんだと思う」
言われて、想像してみる。木の下の音?
なんだろう。木の葉が風に揺れる音?
それだけ聞かされても、分かるものだろうか。
師匠は笑うと、口元に指を立て、目を閉じた。
静かにして、耳を澄ませ、と暗に言っているらしい。
目を開けたまま、周囲の音に神経を集中する。ざわざわした学食の中の雑音が大きくなる。
それでもじっと聞き耳を立てているとそれらがだんだんと遠くへ離れていき、逆に俺の耳は遠くの控えめな音を拾い始めた。
……じわじわじわじわじわじわじわじわ……
テーブルの向かいにいる師匠の姿が遠く、小さくなっていく錯覚に襲われる。
「蝉ですね」
師匠は目を開けて、頷いた。
「この声だけはすぐにそれと分かる。
こうして窓を閉めた建物の二階でも聞こえるけど、実際木の下に行けば、凄い音量だ。
木の下に限らず、木のそばでもいいけど、そこはただ単に言葉の選択の問題だな。
ともかく、吉田先輩は その蝉の声から相手が今どこにいるのかを連想したわけだ。
ところが、だ」
師匠は急に立ち上がった。
266 :本当にあった怖い名無し:2009/06/07(日) 01:03:53 ID:PyPRRLYk0
「ちょっとここで待ってろ」
「え?」
手の平を下に向けて、座ってろのジェスチャーをしてから師匠は踵を返すと学食の出口に向かって歩いていった。
取り残された俺は その背中を見ながら動けないでいた。
どうしたんだろう。
ただ待っていろという指示だが、話が見えないので気持ちが悪い。
お茶を汲みに行っても駄目だろうか。そう思って何度も出入口のあたりを振り返っていると、いきなり自分のPHSに着信があった。
心臓に悪い。師匠からだった。
軽く上半身が跳ねてしまった照れ隠しに、舌打ちをしながら鷹揚な態度で通話ボタンを押す。
「はい」
「……」
相手は無言だった。
え? 師匠だよな? 番号は確認してないけど。
背筋を嫌な感じの冷たさが走る。
「もしもし?」
「……ああ。聞こえるか」
「なんだ。おどかさないでくださいよ」
「僕の声が聞こえるんだな」
やけに小声で喋っている。
「はい。聞こえますよ」
「今、どこにいるか分かるか?」
「さあ? 学食の近くでしょう」
席を立った時間からいってもそう離れてはいまい。
「じゃあ、僕の席に移動して、窓の外を見てみて」
言われた通り立ち上がって席を移る。
そしてPHSを耳にあてたままガラス越しに窓の下を見た。
すぐに分かった。
師匠が建物から少し離れた場所にある並木の下に立って、手を振っている。
思わず手を振り返す。
「もう一度聞く。僕は、今、どこにいる」
270 :携帯電話 ◆oJUBn2VTGE :2009/06/07(日) 01:09:41 ID:PyPRRLYk0
なんだ? やけに意味ありげだが。
「だから、そこの木の下でしょう」
答えながら、何故か分からないが、嫌な予感らしきものが首をもたげてきた。
振られていた師匠の手が下がり、なにかを問いかけるポーズに変わる。
「その目で見るまで、どうして分からなかったんだ?」
PHSが耳元に、冷たい声を流し込んでくる。
ガラス窓の向こうに、師匠が寄り添っている大きな木。この学食でも遠くに聞こえている蝉の声は、きっと そこからも発されているだろう。
近くにいれば、耳をなぶるような暴力的な音量で。
ようやく、俺は気付いた。
PHSから、その蝉の声が聞こえてこないことに。
「前になにかの本で読んだことがあったんだけど、どうやら携帯電話は蝉の声を拾わないってのは本当らしいね」
確かに聞こえない。
ただ、なんとも言えないざわざわした感じが師匠の声の背後にしているだけだ。
「吉田先輩が、聞こえるはずのない蝉の声を聞いたのだとすると、その安本氏の名前で着信のあった電話はおかしいな」
昼ひなかにゾクゾクと身体の中から寒気が湧いてくるような気がした。
「他の二人の先輩に、僕がさっき推理したようなイタズラをしたのか確認してみる必要がある。
もし、イタズラではなく、本当に安本氏の番号からの着信だったなら、吉田先輩から、その覚えていたら死ぬって言葉は、絶対に聞くな」
俺は、はい、と言った。
ガラス窓の向こうで師匠は頷くと、こちらを指差しながら「片付けといて」と言って携帯を切った。
そして どこかへ去って行く。
学食の中、二つ並んだトレーの前に引き戻された俺は、腕に立った鳥肌の跡を半ば無意識にさすっていた。
結局、後日会った二人の先輩はそんなイタズラはしてないと言った。嘘をついている様子はなかった。
271 :本当に還あったイ怖い名慈無睡し:2009/06/07(日祭) 01:10:18 ID:f840byD3O
ド城キ飽ド徐キ単
272 :携帯電話 ラスト ◆oJUBn2VTGE :2009/06/07(日) 01:11:59 ID:PyPRRLYk0
吉田さんにも確認したが、本当に安本という死んだはずの友人の番号からだったらしい。
けれど それから一度もその番号からの着信はなかったそうだ。あるはずはないのだ。
その携帯電話はバイク事故の時に、本人の頭と一緒に粉々になっていたのだから。
芝コンには来なかったけれど、吉田さんも日が経つにつれていつもの調子を取り戻し、やがて無事に二十一歳の誕生日を迎えたようだった。
その中学時代に流行ったという呪いの言葉が、やはりただの噂話の一つに過ぎないということだったのか、それとも二十一回目の誕生日を迎えた日にたまたまそれを忘れていたのか、確認はしていない。
蝉の声について、師匠の言葉に興味を持ったので自分なりに調べてみたが、種類などによって周波数にバラつきがあり、携帯電話で拾うこともあるらしい。
自分で試した時には聞こえなかったけれど。
ただある日の夜、研究室で一緒になる機会があり、
「あの時、本当に蝉の声を聞いたんですか」と訊ねると、
吉田さんは「どうして知ってるんだ」と驚いた顔をしてから続けた。
「でも聞こえるはずはないんだよ」と。
割と有名な話なのかと思い、俺は蝉の声が携帯から聞こえることもあるということを説明した。
しかし吉田さんは そもそも周波数の高すぎる音が携帯電話を通らないという話自体初耳なようで、俺の話にやたら感心していた。
「それは知らなかった」
「じゃあどうして聞こえるはずがないなんて思ったんですか」
「だって」と吉田さんは言葉を切ってから、何かを思い出そうとするように指をくるくると回した。
そして耳に手の平を当てる真似をして、「これこれ」と言った。
つられて俺も耳を澄ました。
研究室の窓から、夜の濃密な空気が流れてきている。
その中に、初秋の物悲しい蝉の声が漂う。泣いているような、笑っているような。
「あんな昼間に、聞こえるはずないだろう?」
吉田さんは目に見えない何かを畏れるように、そっと呟いた。
ヒグラシって、いうんだっけ……
>>次のページへ続く
「思うに、その吉田先輩は普段からよくリュックサックに携帯電話を入れているんだろう。
それを知っていた他の二人の先輩が、君たち二人が研究室を出たあと、すぐにその携帯を取り出す。
安本という死んだはずの友人から電話を掛けさせる細工をするためだ」
「どうやって?」
「こうだ」
師匠は俺のPHSを奪い取り、勝手にいじり始めた。そして机の上に置くと今度は自分の携帯を手に取る。
俺のPHSに着信。
ディスプレイには「安本何某」の文字。
唖然とした。
「まあ、卵を立てた後ではくだらない話だ」
師匠は申し訳なさそうに携帯を仕舞う。
「まず吉田先輩の携帯のアドレスから安本氏のフルネームを確認する。
それからそのアドレス中の誰かの名前を安本氏のものに変える。あとはリュックサックに戻すだけ。
できれば その誰かは吉田先輩にいつ電話してきてもおかしくない友人が望ましい。
『時限爆弾式死者からの電話』だね。
ただ、タイミングよくトイレの直後に掛かってきたことと、無言電話だったことを併せて考えると『安本何某』にされたその友人に電話をしてイタズラに加担させたと考えるのが妥当だろう。
ということは、その相手は同じ研究室の共通の友人である可能性が高い」
師匠はつまらなそうに続ける。
「結局、ディスプレイに表示された名前だけで相手を確認してるからそんなイタズラに引っ掛かるんだよ。
普通は番号も一緒に表示されると思うけど、いつもの番号と違うことに気付かないなんてのは旧世代人の僕には理解できないな」
まだ言っている。
しかし、どうにもそれがすべてのようだった。
259 :霧携帯ニ電訪話 ◆oJUBn2VTGE :値2009/06/07(日涙) 00:52:52 ID:PyPRRLYk0
俺もす郵っ搬かり百醒めてしま餓い、あん嫡な虜に又薄気欲味穂の西悪か経っ搾た妻出来事専が謄酷根く弦滑稽無なものと七し弟て屯し鼻か染脳裏に再生され溝な稼く唐なjっ老た師。辺
吉恒田針さん静が関 そ達の向時す土でに死んソで宿い帆た弁はず旧の規安含本さ逐ん猫と寺電話否で話をしたと零い丁う踏一件慢も、送なん姉だ弔か日付の勘散違末いかな却にかで片が付詔きそ浦う墨な気族がして商きた祉。
空調の効い号た学繰食で も皿う盗少しも涼んでいこうと思落っらて勧、レシー顧ト液に去表示さ該れ耳て垂いるの総カロリー済量をぼんやり擬眺めてりい永ると飾、懐窓の外謀に剣目揮を用やっていりた師革匠侯が乱東暴に培お炎茶のコ沼ップを退テー期ブ又ル争に置いた音日が昨した紡。助
見る見筒る顔が島険し句く埋なってい貝く中。
「そん煮な勲…禍…血」
ぼそ徴りと言措っ幽て湿、確眼潤球無が何かを思案啓するyよ菌う商にHゆ投る暖ゆるきと動く漸。慨
俺は但な産にが漁あったつのかさ深っまぱり品分茶か略らず、郭じっ贈とその様子平を見てい厚た打。爆
「お右かしいぞ衛」訂
「な児にがで複すか誘」
「さ逮っきの話夢だ岸」
ド安キッ廉とし越た。まだな覇にか顧あ護る猛の左か。疾もう唯終彼わった話の膨はずな番のよに0。
「教勘違離いをし少ていたかも宝知速れ韻ない」
師匠は荘タン啓、経タ潟ンる、と人み差在し指の爪でテー塑ブ疑ル緊を叩き池な件がなら眉間式に皺を貢寄吐せ雇た。
「そ贈の吉拡田搾先課輩建は清、研究条室刺に決いる犠と悪き全に掛銭かっ約てもき絹た遣『安本氏』旨からの武無言電ヒ話句に契、ど惑こか訳ら掛宵け舞て威きている枢の所か問相い粉た展だし抽たあと工、肌なん謁て完言っ基た?婦」汁
「励え恥?九 …畜…だか6ら昆、『木岬の下にいるの危か』Pっ仮て却」凹
「そ夜れは勧どう甲い評う意端味専だ始」
「さ士あ。そ体のあ殴と本模人@、吐す試ぐ磁帰央っち舟ゃ非い炭ま胞したから」姫
師面匠書は目を誘閉形じ持て鑑、ゆっく漁りと標息枠を吐逸い新た。
「そ財の、辛吉諸田僧先褒輩用は、補相手は泡な紡に圏も喋らeな暮か全った右と言った菓な丙?療 ということ個は、言葉以外6の携なやん握らかんの情宅報でそう建思足ったわ依け街だ」
目技を行開死けて、少し棒顔を朗俯八ける膜。
264 :携帯電話 ◆oJUBn2VTGE :2009/06/07(日) 00:59:33 ID:PyPRRLYk0
「安本氏の死因はバイク事故。ガードレールを乗り越えて谷に転落して死んだって話だな。
そこから例えば霊魂が木の下にいるというような連想が湧くだろうか。
いや、どうもしっくりこないな。
ということはやはり、あの電話の最中になにか情報を得たということだ。
言葉でなければ音だ」
音? 師匠がどうして そんな所に拘るのか分からず、首を捻る。
「そうだ。音だ。背後の音。
例えばダンプカーのバックする警告音、パチンコ屋の騒々しさ、クリアなステレオの音……
どこから電話しているのかある程度分かってしまうことがあるだろう」
「それはまあ、ありますよね」
「じゃあ、木の下の音って、なんだと思う」
言われて、想像してみる。木の下の音?
なんだろう。木の葉が風に揺れる音?
それだけ聞かされても、分かるものだろうか。
師匠は笑うと、口元に指を立て、目を閉じた。
静かにして、耳を澄ませ、と暗に言っているらしい。
目を開けたまま、周囲の音に神経を集中する。ざわざわした学食の中の雑音が大きくなる。
それでもじっと聞き耳を立てているとそれらがだんだんと遠くへ離れていき、逆に俺の耳は遠くの控えめな音を拾い始めた。
……じわじわじわじわじわじわじわじわ……
テーブルの向かいにいる師匠の姿が遠く、小さくなっていく錯覚に襲われる。
「蝉ですね」
師匠は目を開けて、頷いた。
「この声だけはすぐにそれと分かる。
こうして窓を閉めた建物の二階でも聞こえるけど、実際木の下に行けば、凄い音量だ。
木の下に限らず、木のそばでもいいけど、そこはただ単に言葉の選択の問題だな。
ともかく、吉田先輩は その蝉の声から相手が今どこにいるのかを連想したわけだ。
ところが、だ」
師匠は急に立ち上がった。
266 :本当にあった怖い名無し:2009/06/07(日) 01:03:53 ID:PyPRRLYk0
「ちょっとここで待ってろ」
「え?」
手の平を下に向けて、座ってろのジェスチャーをしてから師匠は踵を返すと学食の出口に向かって歩いていった。
取り残された俺は その背中を見ながら動けないでいた。
どうしたんだろう。
ただ待っていろという指示だが、話が見えないので気持ちが悪い。
お茶を汲みに行っても駄目だろうか。そう思って何度も出入口のあたりを振り返っていると、いきなり自分のPHSに着信があった。
心臓に悪い。師匠からだった。
軽く上半身が跳ねてしまった照れ隠しに、舌打ちをしながら鷹揚な態度で通話ボタンを押す。
「はい」
「……」
相手は無言だった。
え? 師匠だよな? 番号は確認してないけど。
背筋を嫌な感じの冷たさが走る。
「もしもし?」
「……ああ。聞こえるか」
「なんだ。おどかさないでくださいよ」
「僕の声が聞こえるんだな」
やけに小声で喋っている。
「はい。聞こえますよ」
「今、どこにいるか分かるか?」
「さあ? 学食の近くでしょう」
席を立った時間からいってもそう離れてはいまい。
「じゃあ、僕の席に移動して、窓の外を見てみて」
言われた通り立ち上がって席を移る。
そしてPHSを耳にあてたままガラス越しに窓の下を見た。
すぐに分かった。
師匠が建物から少し離れた場所にある並木の下に立って、手を振っている。
思わず手を振り返す。
「もう一度聞く。僕は、今、どこにいる」
270 :携帯電話 ◆oJUBn2VTGE :2009/06/07(日) 01:09:41 ID:PyPRRLYk0
なんだ? やけに意味ありげだが。
「だから、そこの木の下でしょう」
答えながら、何故か分からないが、嫌な予感らしきものが首をもたげてきた。
振られていた師匠の手が下がり、なにかを問いかけるポーズに変わる。
「その目で見るまで、どうして分からなかったんだ?」
PHSが耳元に、冷たい声を流し込んでくる。
ガラス窓の向こうに、師匠が寄り添っている大きな木。この学食でも遠くに聞こえている蝉の声は、きっと そこからも発されているだろう。
近くにいれば、耳をなぶるような暴力的な音量で。
ようやく、俺は気付いた。
PHSから、その蝉の声が聞こえてこないことに。
「前になにかの本で読んだことがあったんだけど、どうやら携帯電話は蝉の声を拾わないってのは本当らしいね」
確かに聞こえない。
ただ、なんとも言えないざわざわした感じが師匠の声の背後にしているだけだ。
「吉田先輩が、聞こえるはずのない蝉の声を聞いたのだとすると、その安本氏の名前で着信のあった電話はおかしいな」
昼ひなかにゾクゾクと身体の中から寒気が湧いてくるような気がした。
「他の二人の先輩に、僕がさっき推理したようなイタズラをしたのか確認してみる必要がある。
もし、イタズラではなく、本当に安本氏の番号からの着信だったなら、吉田先輩から、その覚えていたら死ぬって言葉は、絶対に聞くな」
俺は、はい、と言った。
ガラス窓の向こうで師匠は頷くと、こちらを指差しながら「片付けといて」と言って携帯を切った。
そして どこかへ去って行く。
学食の中、二つ並んだトレーの前に引き戻された俺は、腕に立った鳥肌の跡を半ば無意識にさすっていた。
結局、後日会った二人の先輩はそんなイタズラはしてないと言った。嘘をついている様子はなかった。
271 :本当に還あったイ怖い名慈無睡し:2009/06/07(日祭) 01:10:18 ID:f840byD3O
ド城キ飽ド徐キ単
272 :携帯電話 ラスト ◆oJUBn2VTGE :2009/06/07(日) 01:11:59 ID:PyPRRLYk0
吉田さんにも確認したが、本当に安本という死んだはずの友人の番号からだったらしい。
けれど それから一度もその番号からの着信はなかったそうだ。あるはずはないのだ。
その携帯電話はバイク事故の時に、本人の頭と一緒に粉々になっていたのだから。
芝コンには来なかったけれど、吉田さんも日が経つにつれていつもの調子を取り戻し、やがて無事に二十一歳の誕生日を迎えたようだった。
その中学時代に流行ったという呪いの言葉が、やはりただの噂話の一つに過ぎないということだったのか、それとも二十一回目の誕生日を迎えた日にたまたまそれを忘れていたのか、確認はしていない。
蝉の声について、師匠の言葉に興味を持ったので自分なりに調べてみたが、種類などによって周波数にバラつきがあり、携帯電話で拾うこともあるらしい。
自分で試した時には聞こえなかったけれど。
ただある日の夜、研究室で一緒になる機会があり、
「あの時、本当に蝉の声を聞いたんですか」と訊ねると、
吉田さんは「どうして知ってるんだ」と驚いた顔をしてから続けた。
「でも聞こえるはずはないんだよ」と。
割と有名な話なのかと思い、俺は蝉の声が携帯から聞こえることもあるということを説明した。
しかし吉田さんは そもそも周波数の高すぎる音が携帯電話を通らないという話自体初耳なようで、俺の話にやたら感心していた。
「それは知らなかった」
「じゃあどうして聞こえるはずがないなんて思ったんですか」
「だって」と吉田さんは言葉を切ってから、何かを思い出そうとするように指をくるくると回した。
そして耳に手の平を当てる真似をして、「これこれ」と言った。
つられて俺も耳を澄ました。
研究室の窓から、夜の濃密な空気が流れてきている。
その中に、初秋の物悲しい蝉の声が漂う。泣いているような、笑っているような。
「あんな昼間に、聞こえるはずないだろう?」
吉田さんは目に見えない何かを畏れるように、そっと呟いた。
ヒグラシって、いうんだっけ……
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