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記憶を消せる女の子の話
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125 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)03:03:37 ID:pIU(主)
灯は俺の手を強く握りしめる。

こういうとき、行動に乗せる思いは言葉に託された思いより饒舌に心に染み入る。

大人がもう一人かけつけてきて、俺に事件の顛末を伝えた。

頭の中がぐちゃぐちゃなくせに、どうしてか滑らかに、この事件の全容を把握することができた。




126 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)03:11:53 ID:pIU(主)
この通り魔事件は、子供を対象にしたものらしい。

犠牲者の数は三人。どの人も子供をかばって殺された。そのため子供の死傷者は0である。

犯人は勇気ある大人たちの手によって捕えられ、今は完全に無力化されている。

あとは警察が来るのを待つだけらしい。

一応、事件は終息した。




132 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:13:12 ID:pIU(主)
父さんを亡くしてしまった俺がいるせいで、事件が終息したにもかかわらず、大人たちは素直に安堵の表情を浮かべられないようだった。

灯の母は保護された子供の様子を見に行くと言って、事件現場へ走って行った。

俺の父が守った子供を、俺に教えるためかもしれない。




133 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:13:43 ID:pIU(主)
俺に事件の顛末を説明してくれた大柄な男の人は、どういった表情をすればいいのかわからないといった様子で、唇を引き結んでいた。






134 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:17:11 ID:pIU(主)
灯は依然として俺の手を強く握ってくれている。

その繋いだ手をはなせば、俺は精神的にも肉体的にも寄る辺がなく崩れ落ちてしまうのは確かだった。

灯の目尻には大粒の涙が浮かんでいる。

朝露にも似たその涙は、太陽の残滓を余すことなく取り込んで、それに優しさを加えて照り返していた。





135 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:17:48 ID:pIU(主)
やっぱり、この子は泣き虫だ。

赤の他人のために泣ける人に、俺は初めて出会った。

こんな状況で、しかも泣き顔を、綺麗だなと思ってしまうのは駄目なんだろうな。




136 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:20:12 ID:pIU(主)
灯の父はなにも言わず、もう一度俺の頭を撫でた。

漏れ出てしまう後悔を必死に隠そうとする表情は強かだったが、やっぱり、そんな表情をされても悲しくなるだけだ。

灯の父は悪くない、むしろ感謝さえしている。

悪いのはあの通り魔ただ一人じゃないか。

俺は道徳的にも倫理的にも間違っているのを承知で、子供らしく純粋に、強く思った。

どうすれば、あの殺人者を殺せるのだろう。




137 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:24:44 ID:pIU(主)
俺達は出口の門へ向かう列の最後尾にはじかれていた。

混乱がおさまって、人々は安心した面持ちをしだす。

他人のことを考えられるくらいの心の余裕は出て来たのか、走る人は消えた。




138 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:25:12 ID:pIU(主)
彼らのその安心に、俺は筋違いと知っていながらも、憎しみめいた視線を向けてしまった。

駄目だ違うと、ふるふると頭を横に振った。




139 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:30:56 ID:pIU(主)
「憎んでいいんだよ」

先程のキャップの男が、笑いを堪えきれないのか口元を掌で覆い、俺に声をかけた。

距離は近かった。俺が目を伏せている間に、筋違いな恨みを人々に向けている間に、ここまで近寄られていた。

大きな声ではなかった。囁き声ともとれる。

けれども、囁き声のような、という形容表現ではあの男の声に含まれている狂気を修飾できない。

「きっと辛いだろう、これから先、お父さんを亡くして生きていくのは」

笑顔だった。

この人、壊れている。俺が現実から目を背けている間に、こんなにも狂気に近寄られていた。

俺の中にあった狂気や恨み、憎しみを敏感に感じ取ったのだ。




140 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:36:19 ID:pIU(主)
「おい、なんて言葉をかけてるんだよ」

灯の父は男を睨み付けた。

優しい人の怒り顔というのは、怒りを向けられていない周囲にさえも底冷えに似た感覚に陥らせる。

俺は、ただその光景を見ていた。

「だから、殺してやろうと思うんだ」

こうなることを知っていた気がする。






141 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:37:20 ID:pIU(主)
子供を対象とした通り魔。

俺と灯は手を繋いでいた。

狙われているのは俺だ。

ここで手を離さなければ、灯を巻き込むことになる。

手を振り解こうとするが、灯は手を離さない。

一月の寒空には薄い雲がかかっていた。

太陽は先程よりも柔らかな光で俺達を照らしている。




142 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:41:51 ID:pIU(主)
ナイフ、のようなものが銀色の鈍い光を先端に宿らせて、俺の眼前に現れた。

それが俺に突き刺さるまで、あと数秒もないだろう。

最後に、灯の顔を見ておこう。俺は諦めたのだ。





143 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:43:24 ID:pIU(主)
せめて、この脆くて美しい彼女の泣き顔を、最後の景色にしよう。

おそらく、生涯で一度も聞くことがないだろう重い音とともに、血しぶきがあがる。

灯は鮮血に塗れていた。

黒く、しなやかな長髪の所々に血が飛び散る。白い肌も、白を基調とした服装にも、同様、もしくはそれ以上に。

灯の目尻の光は血に蓋をされてしまった。

俺はこんなに苦しそうな灯を最後の景色にしたかったんじゃない。




144 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:56:09 ID:pIU(主)
でもここで終わりか。

死は、痛みの無いものなのかもしれない。

手が強く握られる。俺は生きているのか?

ではこの血はいったい、誰の。

「パパ……」




145 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)20:58:29 ID:pIU(主)
灯の父が、俺の前で倒れている。腹の辺りを刺されていた。生臭さを伴って、心臓が脈打つように一定のリズムで血が噴き出している。

さっきの鮮血は、わざと灯に血を浴びせるように、ナイフを酷い角度で引き抜いたんだ。

灯の父は歯を食いしばって、身体を起こそうとする。

乱れた呼吸と吐血。顔には汗が滲んでいた。

「うっ……、ひっぐ、ううぅ、パパ」

灯は泣いている。灯の父は生命の一滴を使って、優しく答える。

「早く逃げるんだ。頼む、石原くん」




146 :名無しさん@おーぷん :2017/02/26(日)21:08:08 ID:pIU(主)
俺は繋いだ手を強引に引き寄せる。

灯は動かない。お父さん、お父さん、と唇を動かすだけだ。

くそう、引っ張らなきゃ。連れて逃げなければ。でなければ、俺は本当に。

この状況、惨事を目の当たりにして動ける人は周りにいなかった。

先程、事件の内容を話してくれた大柄な男も呆然と立ち尽くしている。





>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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