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十年前から電話がかかってきた
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251 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:06:24.39 ID:4Rrzhlts.net
あなたが好きです。



252 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:06:43.33 ID:4Rrzhlts.net
たとえ もう二度と話せなくても、ずっと会えなくても、それでも好きです。

ただただ好きです。



253 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:07:02.13 ID:4Rrzhlts.net
でも、あなたは私のこと忘れてください。

私のことは気にしないで、美容師さんと……

ただ、桜が咲いているときくらいは、私のこと思いだしてもらっていいですか?

それだけ、一つワガママ。

覚えておいてください私の名前は……



254 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:07:42.09 ID:4Rrzhlts.net
彼女の名前で手紙は締めくくられていた。

涙で視界が霞んでいたけど、それでもしっかり見えた。



255 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:08:07.91 ID:4Rrzhlts.net
彼女の気持ちは伝わった。

俺は どうしたらいいんだ?

自分がどうしたらいいのかわからない。




256 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:08:25.47 ID:4Rrzhlts.net
「おい!」

横から大きな声が聞こえた。

「行けよ!」

「……え?」

「だから、行けよ! なんかよくわかんないけどさ、行かなきゃいけないんだろ? だったら、行くべきだ」

桐島の言葉は正しいんだ、なにもわかってないくせに、全部わかってる。

でも、その正しさが今の俺には たえられなかった。



257 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:08:46.80 ID:4Rrzhlts.net
「でも、もしここで会いに行って、それがもっと傷つけるかもしれない、傷つくかもしれない、それなら……」

「お前はどうしたいんだよ?」

「…………」

「行きたいんだろ、だったら なにも考えないで行けばいい、ここのことは俺にまかせて行けばいい、そうだろ?」

「どうして……どうして そこまでしてくれるんだ?」

わざわざ一回断ったタイムカプセル掘りに付き合ってくれて、背中を押してくれる。

いいやつだってわかってたけど、でもここまでなんで?



258 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:12:37.46 ID:4Rrzhlts.net
「俺のさ、留年が決まったとき、みんな表面では『大丈夫、大丈夫』みたいなこと言ってくれたけど、それでも、どこか一歩引いてる感じがあった。

まあ、二ヶ月も学校休んだ俺が悪いんだけどな。でも、お前だけは違った。お前だけは いつも通り、普通に俺に接してくれたろ?

そのとき思ったんだ、こいつは すごいやつだって」

そんなことで、ただそれだけで……

「だからさ、そんなお前なら大丈夫だ。絶対になんとかなる、いや、お前ならなんとかするだろ? それが俺の知ってる葛木 渉だ。だから、行ってこい!」



259 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:12:53.95 ID:4Rrzhlts.net
また、目がにじんできた。

俺は いつからこんなに感情豊かになったんだ?

彼女に影響を受けすぎたかもな。

でも、桐島の言葉 それくらい胸にしみた、背中を押してくれた。



260 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:13:18.25 ID:/kTd7I6w.net
「わかった、ありがとう」

そうだ、自分の気持ちに正直になればいい。

俺は会いたい、彼女に会いたいんだ。

だから行くんだ。

「おう!」



261 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:13:41.85 ID:/kTd7I6w.net
桐島の返事を背に、俺はもう走っていた。

ただ、ひたすら走った。

場所はなんとなくわかる、あそこしかない。

もし、あそこにいなかったらまた探せばいい。

いまならどこまででも、いくらでも走れる気がした。

多分これが映画とかだったら、うしろにはあの曲が流れてるんだろうな。



262 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:14:04.43 ID:/kTd7I6w.net
俺は走った。

すぐそばにいた、でも一番遠かった、そんな大事な人に会うために。



264 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:40:33.73 ID:/kTd7I6w.net



三回目の夜の海には先客がいた。

「隣、いいですか?」

「……えっ」

驚くその人を横目に隣に座った。



265 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:41:01.71 ID:/kTd7I6w.net
「……なんで、君がここにいるの?」

その人は振り絞ったような声を出す。

「あなたに会うためです」

俺は横を見ずに海に向かって話した。




266 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:41:29.20 ID:/kTd7I6w.net
「もう何年も言えてないことがあって、それをいわないとな、って思いまして、それで。だけど、あなたの横に座るのって新鮮ですよね、いつもあなたはうしろにいるから」



267 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:41:53.81 ID:/kTd7I6w.net
その人は黙ったままだった。

俺が誰なのかわかっているんだろうか?

でも、そんなことはどうでもいい。

俺は自分の言いたいことを言うだけだ、無責任に、自由に、それでなんとかしてみせる。



268 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:42:13.36 ID:/kTd7I6w.net
その言葉は考えなくても自然に出てきた。

まるでずっと前から言うことが決まっていたかのように、いや、多分決まってたんだ、運命とか言うつもりはないけど、それでも、こうなることは決まっていた。

俺は彼女の、美咲さんの方を向いて、言った。



269 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:42:31.97 ID:/kTd7I6w.net
「十年前から好きでした」



270 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:43:10.61 ID:/kTd7I6w.net
「苗字だったんですね、『さくら』って。佐倉 美咲、知りませんでした」

考えてみれば、姓名どっちでもありえる名前だ。

「じゃあ、やっぱり君が……」

「気づいてたんですか?」



271 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:43:26.53 ID:/kTd7I6w.net
「なんとなくだけど……何回か会うたびに君が彼なんじゃないかなって、でも、言っちゃダメだって、それで……」

頬には涙がつたっていた。

何回も彼女の泣き声を聞いてきたけど、実際に泣いてる顔を見るのは初めてだ。



272 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:44:01.31 ID:/kTd7I6w.net
「だから名前で呼んでくれなかったんですね。ずっと『君』って。

あなたにとって俺は、名前を知らない未来人だったから」

「そうだよ……ダメだってわかってても、それでもやっぱり君は私にとって……」



273 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 20:45:15.82 ID:/kTd7I6w.net
「ダメなんかじゃない! ダメなんかじゃ……ないです。

たしかに、俺はあなたがこの十年間どう過ごしてきたのかしりません。それなのにあんなこと言うのは無責任なのかもしれません。でも、それでも俺はあなたのことが好きです。十年前からそれは変わりません」

「…………」

「一万年と千九百九十年足りませんけど」

「なんなの、それ。ずるいよ」


美咲さんの口は緩んでいた。

やっぱり感情豊かだな、十年たっても変わらない。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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