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58 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:37:22.20 ID:msabUvV8.net
「じゃあ、結局……」

「はい、お手上げですね。全然わかりません、そのバイトが何のためにあるのか」

彼女は肩をすくめてそう言った。

「そうか……」

「すみません……お力になれなくて」

「いや、仕方がないさ」

そう、仕方がないんだ。

いくら彼女とはいえ、こんな少ない情報で、こんな訳の分からない謎を解けるわけがない。


59 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:37:48.12 ID:msabUvV8.net
「とりあえず、今日はもう帰りましょうか。もう終了のメールが来たんですよね?」

「ああ」

「もし、また何か新しいことがわかったら言ってください。力になれるかはわかりませんが」

「いや、ありがとう。そうするよ、とても心強い」

実際、彼女ならそのうち、この謎を解いくれるんじゃないかという気がしていた。

「それじゃあ、さようなら……」

「ああ、また明日」

さようなら、そう言った彼女の目は なんだか少し悲しそうに見えた。


60 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:38:31.19 ID:msabUvV8.net
家に帰ってしばらくすると、もう一通メールが届いた。

しかし、メールボックスを開いてみて気づいたが、ここ最近来たメールは全部バイト関連のことだけだ、俺の交友関係は どんだけ寂しいんだろうか。

自分に呆れながら最新のメールを開くと、そこにはバイトの終了を告げるメールがあった。

バイトの終了と言っても、いつものもう帰っていいよというメールじゃない、もうこのバイトに来なくていいよというメールだった。


61 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:38:51.89 ID:msabUvV8.net
なんで急にバイトが終わることになったんだ?

まさか、彼女のバイトについて話したのが ばれたのか?

だが、あそこら辺に監視できるような場所はなかった。

じゃあどうして?


62 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:39:16.76 ID:msabUvV8.net
考えているうちに俺は、見落としていた事実に気づいた。

そもそも なんで彼女をバイトと関係ないと思ったんだ?

あんな公園にいる女子高生、どう考えても怪しいじゃないか。

どうして こんな簡単なことに気づかなかったんだ、俺は。

一度考えつくと もう止まらなかった。

彼女とバイトに関する推測が、いくつも出てきた。




63 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:39:40.07 ID:msabUvV8.net
少し時間が経って落ち着いてから、俺は一つのことを決めた。

明日彼女に真実を聞こう。

割のいいバイトが終わって嫌だったからじゃない、俺は ただこのバイトがなんだったのか気になってしょうがなかった。

もし、彼女がバイトを募集したんだとしたら、一体なんのために そんなことをしたのか。

ここまでバイトを続けたんだ、それくらい知る権利はあるはずだ。


64 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:40:30.49 ID:msabUvV8.net
その夜は疑問と推測が頭の中を蠢いてあまり眠れなかった。

だかそれも明日はっきりするはずだ。

一体彼女が何者なのか。


65 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:41:00.11 ID:msabUvV8.net
次の日、朝起きると俺はすぐに公園に向かった。

さすがにこんな早い時間から公園にはいないだろうと思ったが、それなら待てばいい。

とにかく俺は早く真実を知りたかった。


66 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:41:25.33 ID:msabUvV8.net
公園に着くと、驚くことに彼女は もうそこにいた。

「おはようございます、やっぱり来ちゃいましたか」

来ちゃった? どういう意味だ?

聞きたいことは たくさんあったが、俺はとりあえず彼女の隣に座った。

「随分早いんだな」

「公園の主ですから」

そう言った彼女の顔は、前のような得意げな顔ではなく、ただただ、悲しそうな顔だった。


67 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:41:59.44 ID:msabUvV8.net
「来てすぐで悪いんだが、一つ聞きたいことがある」

ここまでくると、俺にはもう確信があった。彼女バイトについて何か知っているという確信が。

「……」

彼女は何も答えなかった。

俺はその沈黙をイエスと受け取り、さっき得た確信を口にした。

「君があのバイトを募集したのか?」


68 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:42:25.61 ID:msabUvV8.net
「……少し違います、私が募集したわけではありません」

彼女は未だ悲しそうな顔で、とても小さな声を出してそう言った。

「どういうことだ?」

「すみませんでした、私は今まであなたを騙してたんです」

「だから どういうことなんだ? 本当のことを教えてくれないか?」

俺はもう、思ったことを全部口に出していた。

いつもなら もっと考えてから話すのに、今はそれができなかった。


69 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:42:47.70 ID:msabUvV8.net
「そうですね、まずあなたの正体から話しましょうか」

「正体?」

どういうことだ? 俺の正体って、俺には正体だとかそんな大層なものはない。

そもそも なんで俺の話になるんだ?

わけがわからなかった。

「そうです、正体です。あなたの正体は……」

彼女は少し話すのをためらっているように見えた。

少しして、何か決心をしたような目になって彼女は口にした。


70 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:44:09.54 ID:msabUvV8.net
「あなたの正体はレンタルフレンドです」


72 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:45:05.15 ID:msabUvV8.net
私は昔から友達がいませんでした。

周囲に馴染めなくて一人で ずっと本を読んでいるような子供だったと思います。

家族も、父は割と大きな会社を経営していて家に帰ってくるのは夜遅く、母は私が物心つく前に死んでしまったので、私は広い家で ずっと一人でいました。




73 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:45:32.51 ID:msabUvV8.net
中学生になっても、高校生になっても それは変わらず、私はずっと人と関わらないままでした。


74 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:45:51.47 ID:msabUvV8.net
ただ、こんな私にも親しい友人や、温かい家族がいる生活に憧れがありました。

学校で友達と意味もなくお喋りしたり、そのことを家族と話したり、そんな生活をしてみたいと思ってたんです。


75 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:46:46.93 ID:msabUvV8.net
そんなある日、テレビで『レンタル家族』というものの特集をやってるのを見ました。

レンタル家族とは その名の通り、家族の代わりをしてくれる人の、貸し出しサービスのことです。

お葬式とか結婚式での家族の代わりや、忙しい両親のために子供と遊ぶなど、他にもレンタルフレンドやレンタル彼氏とかもいるらしく、寂しい人の心を埋めるサービスだとのことでした。


76 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:46:59.81 ID:msabUvV8.net
そのテレビではレンタル家族について、批判的に特集されてたんですが、何を思ったんでしょうかね、私にはレンタル家族がすごくいいものに見えたんです。

私の心を埋めてくれるのは これだと思ったんですよ。


77 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:47:46.20 ID:msabUvV8.net
その後すぐ私はレンタル家族を派遣する会社に電話しました。

そして父のいない休日にレンタル家族に来てもらうことになりました。


78 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:48:09.93 ID:msabUvV8.net
レンタル家族は本当の家族のように私に接してくれました。

一緒にご飯を食べたり、お料理をしたり、それは私にとって全部初めてのことでした。


79 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:49:42.57 ID:msabUvV8.net
それからは私は父がいない日は、ほとんどレンタル家族に来てもらうようにしました。

その時間は本当の家族のようで、本当に楽しかったです。

レンタル母とお裁縫したり、レンタル父とテレビを見たり、家族とすごすのは こんなに楽しいんだと思いました。


80 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 20:50:05.11 ID:msabUvV8.net
でも所詮それは幻にすぎませんでした。

時間になるとレンタル家族は帰っちゃうんですよ、そしてその後 私は、広い家にただ一人とりのこされるんです。

その時間ほど虚しいものはありませんでした。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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