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ドッペルゲンガーと人生を交換した話
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70 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:13:35.56 ID:EjVEnkhT.net
「送るよ」

「うん」

そこから、七瀬の家まで俺たちはあまり言葉を交わさなかった。多分言葉はいらなかったんだと思う。

「じゃあ、今日はありがと。また明日ね」

「ああ、また明日」

明日、その明日七瀬に会うのは俺じゃなくて椿なんだよな。


71 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:14:37.10 ID:EjVEnkhT.net
七瀬と別れてから、俺は一つ決心をした。

というより、さっき七瀬が「変わってないね」と言ってくれた時から、とっくに心は決まっていた。

七瀬は俺と入れ替わった椿のことを、別人だと言ってくれた、とても悲しそうな顔で。

七瀬のあんな顔はもう見たくない。

もう、やめにしよう。

入れ替わりはもう終わりだ。


73 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:15:42.65 ID:EjVEnkhT.net
自分のやるべきことがわかると、人は強くなるという。多分それは本当だろう。

現に今、自分がこの夜の街の帝王にでもなったかのように、俺の心は自信に満ちていた。

つまらない人生でもいい、掃き溜めのような暗い人生でもいい、七瀬のあんな悲しい顔を見るくらいなら、あの顔を笑顔に変える力になれるなら、椿のピカピカ光る人生よりも、俺はそっちを選ぶ。

その日の夜は久しぶりにぐっすり眠れた。


75 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:17:21.96 ID:EjVEnkhT.net
朝起きてすぐ、椿に電話をした。

「昨日の公園に来てくれないか、今すぐ」

そう言うと椿は、少し驚いていたが、「わかりました」と、了承した。




76 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:17:50.95 ID:EjVEnkhT.net
公園までの道、俺はずっと昨日看板が落ちてきた時のことを考えていた。

よくよく考えれば、あれはおかしいんだ。

あの建物は古くは寂れていたが、看板は比較的新しかった。多分古いビルを利用して、別の店の看板を取り付けたんだろう。

だとすると、老朽化なんてしてるはずがないんだ。


77 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:18:51.35 ID:EjVEnkhT.net
俺がここ数日間ずっと抱いていた疑問、椿はどうして俺と入れ替わろうと思った?

あんな、充実した人生を送る奴が、なんで俺みたいなやつと入れ替ろうと思ったんだ。

あいつは、飽きたからと言った。本当にそうなのか?違う理由があるんじゃないか?

もう俺の疑念は確信に変わっていた。


78 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:19:16.90 ID:EjVEnkhT.net
公園に着くと、椿は昨日と同じように、ブランコの柵に腰掛けていた。

「それで、どうしたんですか。学校サボっちゃダメですよ。まぁ、三日間、貴方をつけるために学校サボった僕が言えることじゃないですけど」

「ああ、単刀直入に言う。入れ替わりを辞めたい」

俺はできるだけ落ち着いて、余裕を持つよう心がけて話した。


79 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:20:33.74 ID:EjVEnkhT.net
「なるほど、まぁ、そうでしょうね。こんな早くに呼び出すってことは、そういうことでしょう。それで、理由は?」

「理由は二つある。一つは言うつもりはない。もう一つは……」

もう俺の、椿に対する印象は決していいものではなくなっていた。

今、椿にある感情は、むしろ最初に会った頃の、よくわからないものに対する不気味という感情だ。


80 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:21:42.72 ID:EjVEnkhT.net
だから、俺は糾弾するように、努めて冷静に、さっき確信したことを口にした。

「お前、命を狙われてるだろ」

「どういうことですか?」

「昨日、俺が歩いていると上から看板が落ちてきた。あと一歩でも前にいたら、俺はここにいなかっただろうな。最初は老朽化か何かだと思った。でも違う、老朽化するような古い看板じゃなかったんだ」

「それで僕が命を狙われていると? それは少し短絡的すぎませんか」

「そもそもおかしいんだ。お前みたいな幸せな奴が、俺と入れ替わったことが。普通に生きてたら俺になりたいなんて思わないはずだ。飽きた? そんなわけがない。そんなふざけた理由じゃなくて、もっと大きな理由があるはずなんだ。

それでやっと合点がいった。お前は俺と入れ替わって、俺を殺させようとしたんだ。お前の命を狙っているやつに。そして自分は俺として、柊 京介として生きていくつもりだったんだ」


81 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:23:07.55 ID:EjVEnkhT.net
俺は自分の考えを、まくしたてるようにすべて話した。椿はずっと黙ったままなので、俺は続ける。

「これですべて辻褄が合うんだ。今後、俺として生きていくつもりなら、少しでもいい人生にしようともするだろう。どうなんだ?」

俺は自分の推測が正しいのか、椿に返事を求めた。




82 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:24:19.68 ID:EjVEnkhT.net
「…………」

しかし椿は、なお押し黙ったままだ。仕方がないので、また俺が話す。

「なんでお前が命を狙われているのかはわからない。

でも、こんなことをしなくても、俺はお前に協力したいと思ってる。

この一週間、お前として過ごしてわかったんだ。お前は、周りのみんなから愛されている。そんなお前が本当に悪いやつなわけがない。

なぁ、話してくれ。なんでお前が命を狙われているのか」



多分一週間前まで、いや昨日までの俺なら、椿に協力したいとは思わなかっただろう。

でも昨日七瀬と話したからかな、俺は本当に椿の助けにもなりたいと思っていた。


83 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:24:58.60 ID:EjVEnkhT.net
「ーーククク、フゥーハハハ」

突然、ずっと黙っていた椿が、今までの椿からは想像もつかないような、笑い声を発した。

「お、おいどうしたんだ」

俺は、椿の豹変ぶりに狼狽えながら、聞いた。

「いやいや、これが笑わずにいられますか?だって、まるっきり的外れだ」

椿は笑い声を挟みながらそう言った。

「的外れ?どういうことだ。いったい何が的外れなんだ?」

俺がそう聞くと、

「何って、僕が命を狙われているとか、いやー本当におかしい。本当に貴方は馬鹿ですね」

椿の豹変と、明らかに悪意を込めた言葉に、俺は言葉を発することができなかった。


84 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:25:40.81 ID:EjVEnkhT.net
「そもそも貴方は疑問に思うところを間違っている。

貴方が疑問に思わなきゃいけないところは、僕がどうして入れ替わろうと思ったとかじゃない、僕達がどうしてこんなに似ているかだ」

そんなのに理由があるのか? 偶然じゃないのか?俺は答えがわからなくて、そのまま口に出す。

「そんなの、たまたまじゃ」

「そんなわけないでしょう。こんなに似てるんですよ。たまたまで済むわけがない」

椿は間髪入れずに、ぼくの答えを否定した。


85 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:26:42.24 ID:EjVEnkhT.net
「なら、なんで?」

「…………」

また椿が黙り出した。いったいこいつは、何を考えているんだ? どういう意味だ? 俺とこいつが似ている理由、そんなものがあるのか?

「おい、答えろよ」

「…………」

俺が何を言っても、椿は黙ったままだった。

静寂が場を支配する。


86 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:27:45.91 ID:EjVEnkhT.net
静寂を崩したのは、俺でも椿でもなかった。

その人の登場に、俺の心はまたざわついた。どうしてあいつがここにいるんだ?

「今の話……どういうこと?」

公園の入り口から七瀬が入ってきた。

「な、なんでここにいるんだ」

「学校に行く途中、駅のホームで柊を見かけた。あんたは学校に行くのに電車は使わないはずなのに。

それに最近の柊なんかおかしかったから、なんかちょっと心配で、それでつけてきたら、この公園に入って、そしたら…… ねぇ、どういうことなの、誰なのその人? 入れ替わりって何?」

「それは……」


87 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:28:40.26 ID:EjVEnkhT.net
俺が答えられずにいると、椿が急に話し出した。

「入れ替わってたんですよ、この一週間、そこの人と僕が」

さっきまでの豹変ぶりとうってかわって、その声はいたって冷静だった。

「どういうこと?じゃあ昨日の夜あったのも柊じゃなくて、貴方なの?」

「それは俺だ」

それだけは否定しなくてはならない。昨日七瀬 千由とあったのは、間違いなく俺だ。

「そっか……」

七瀬の顔はよくわからない表情だった。

「昨日の夜ですか、まぁ、僕にはわかりませんが、大方それが入れ替わりをやめようと言った原因でしょうね。まったく、勝手だ」

椿の声には少し、熱がこもっているように感じた。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:オカルト・ホラー,
 


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