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ドッペルゲンガーと人生を交換した話
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66 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:09:25.29 ID:EjVEnkhT.net
「ふーん」

七瀬は納得してないようだったが、俺は話を無理やり元に戻した。

「それより、七瀬は何で?」

「私は、その……」

七瀬は歯切れが悪そうに口ごもった。

「どうしたんだ?」

「家出したの。親とケンカしちゃってさ、家はこの近くだから、こっそり抜け出してきた」

「ケンカ?何で?」

「それはいいじゃん。それよりさ、少し話さない?」

いいわけがなかったが、このままではらちがあかないので、コンビニの裏の道の縁石に座って、少し話をすることにした。



67 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:11:00.20 ID:EjVEnkhT.net
「最近あんたさ、無理してない?」

七瀬から聞かれたその言葉に俺はドキッとした。まさか椿との入れ替わりがバレたのか?

「無理?」

俺はできるだけ平静を装って聞き返した。

「うん、無理…… 一ヶ月前さ私が絡まれてる時、助けてくれたじゃん。あの時さ、すごい嬉しかったんだよね。

だってさ二ヶ月前、せっかくまた会えたのに、柊はそっけなくてさ。私のことなんてもうどうでもよくなっちゃったのかなって悲しかったんだ。

だから柊が、また私を助けてくれて本当に嬉しかった。やっぱり柊は変わってないんだなって。

でも、最近のあんたはなんか無理してる気がする。

この一週間くらいあんたはよく私に話しかけてくれるようになったけどさ、なんか別人みたいで、もしかして私のこと鬱陶しく思ってないかなって不安で……」


「そんなことないさ」

俺はいつの間にか、七瀬の言葉を遮って返事をしていた。



68 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:11:46.03 ID:EjVEnkhT.net
「俺は七瀬とまた話せて嬉しいよ」

これは本当の気持ちだ。この一週間、椿がどう思って七瀬に接していたかはわからない。

けど、少なくとも俺はまた七瀬に会えて嬉しかった。同時に怖くもあったけど。

「そっか……それならいいけど……」

「それより、何で家出したのか話してくれないか。こんな時間に外にいたら危ないし、もし家に帰りたくないなら、俺の家に……」

そう言いながら俺は口ごもる。今、俺の家には椿がいるんだ。




69 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:12:34.06 ID:EjVEnkhT.net
「うん、ありがと……わかった、大丈夫だから。今日は家に帰るよ。柊と話したら少し楽になった。ケンカの理由は今は言えないけど、いつか話すから」

「そうか、なら良かった。話してくれるまで待ってるよ」

「やっぱ変わんないね、柊は」

「そんなことないさ」

「そんなことあるよ。おせっかいで、優しくて、いつも私を助けてくれる」

「七瀬の力になれたのなら嬉しいよ。それに、さっき言ったことも、本当のことだから」

いつもなら言えないはずの言葉が自然と口から出た。

椿と入れ替わって人と話すのに慣れたからだろうか。それとも相手が七瀬だからか。多分後者だ。



70 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:13:35.56 ID:EjVEnkhT.net
「送るよ」

「うん」

そこから、七瀬の家まで俺たちはあまり言葉を交わさなかった。多分言葉はいらなかったんだと思う。

「じゃあ、今日はありがと。また明日ね」

「ああ、また明日」

明日、その明日七瀬に会うのは俺じゃなくて椿なんだよな。



71 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:14:37.10 ID:EjVEnkhT.net
七瀬と別れてから、俺は一つ決心をした。

というより、さっき七瀬が「変わってないね」と言ってくれた時から、とっくに心は決まっていた。

七瀬は俺と入れ替わった椿のことを、別人だと言ってくれた、とても悲しそうな顔で。

七瀬のあんな顔はもう見たくない。

もう、やめにしよう。

入れ替わりはもう終わりだ。



73 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:15:42.65 ID:EjVEnkhT.net
自分のやるべきことがわかると、人は強くなるという。多分それは本当だろう。

現に今、自分がこの夜の街の帝王にでもなったかのように、俺の心は自信に満ちていた。

つまらない人生でもいい、掃き溜めのような暗い人生でもいい、七瀬のあんな悲しい顔を見るくらいなら、あの顔を笑顔に変える力になれるなら、椿のピカピカ光る人生よりも、俺はそっちを選ぶ。

その日の夜は久しぶりにぐっすり眠れた。



75 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:17:21.96 ID:EjVEnkhT.net
朝起きてすぐ、椿に電話をした。

「昨日の公園に来てくれないか、今すぐ」

そう言うと椿は、少し驚いていたが、「わかりました」と、了承した。



76 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:17:50.95 ID:EjVEnkhT.net
公園までの道、俺はずっと昨日看板が落ちてきた時のことを考えていた。

よくよく考えれば、あれはおかしいんだ。

あの建物は古くは寂れていたが、看板は比較的新しかった。多分古いビルを利用して、別の店の看板を取り付けたんだろう。

だとすると、老朽化なんてしてるはずがないんだ。




77 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:18:51.35 ID:EjVEnkhT.net
俺がここ数日間ずっと抱いていた疑問、椿はどうして俺と入れ替わろうと思った?

あんな、充実した人生を送る奴が、なんで俺みたいなやつと入れ替ろうと思ったんだ。

あいつは、飽きたからと言った。本当にそうなのか?違う理由があるんじゃないか?

もう俺の疑念は確信に変わっていた。



78 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:19:16.90 ID:EjVEnkhT.net
公園に着くと、椿は昨日と同じように、ブランコの柵に腰掛けていた。

「それで、どうしたんですか。学校サボっちゃダメですよ。まぁ、三日間、貴方をつけるために学校サボった僕が言えることじゃないですけど」

「ああ、単刀直入に言う。入れ替わりを辞めたい」

俺はできるだけ落ち着いて、余裕を持つよう心がけて話した。



79 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:20:33.74 ID:EjVEnkhT.net
「なるほど、まぁ、そうでしょうね。こんな早くに呼び出すってことは、そういうことでしょう。それで、理由は?」

「理由は二つある。一つは言うつもりはない。もう一つは……」

もう俺の、椿に対する印象は決していいものではなくなっていた。

今、椿にある感情は、むしろ最初に会った頃の、よくわからないものに対する不気味という感情だ。



80 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:21:42.72 ID:EjVEnkhT.net
だから、俺は糾弾するように、努めて冷静に、さっき確信したことを口にした。

「お前、命を狙われてるだろ」

「どういうことですか?」

「昨日、俺が歩いていると上から看板が落ちてきた。あと一歩でも前にいたら、俺はここにいなかっただろうな。最初は老朽化か何かだと思った。でも違う、老朽化するような古い看板じゃなかったんだ」

「それで僕が命を狙われていると? それは少し短絡的すぎませんか」

「そもそもおかしいんだ。お前みたいな幸せな奴が、俺と入れ替わったことが。普通に生きてたら俺になりたいなんて思わないはずだ。飽きた? そんなわけがない。そんなふざけた理由じゃなくて、もっと大きな理由があるはずなんだ。

それでやっと合点がいった。お前は俺と入れ替わって、俺を殺させようとしたんだ。お前の命を狙っているやつに。そして自分は俺として、柊 京介として生きていくつもりだったんだ」



81 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:23:07.55 ID:EjVEnkhT.net
俺は自分の考えを、まくしたてるようにすべて話した。椿はずっと黙ったままなので、俺は続ける。

「これですべて辻褄が合うんだ。今後、俺として生きていくつもりなら、少しでもいい人生にしようともするだろう。どうなんだ?」

俺は自分の推測が正しいのか、椿に返事を求めた。



82 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 21:24:19.68 ID:EjVEnkhT.net
「…………」

しかし椿は、なお押し黙ったままだ。仕方がないので、また俺が話す。

「なんでお前が命を狙われているのかはわからない。

でも、こんなことをしなくても、俺はお前に協力したいと思ってる。

この一週間、お前として過ごしてわかったんだ。お前は、周りのみんなから愛されている。そんなお前が本当に悪いやつなわけがない。

なぁ、話してくれ。なんでお前が命を狙われているのか」



多分一週間前まで、いや昨日までの俺なら、椿に協力したいとは思わなかっただろう。

でも昨日七瀬と話したからかな、俺は本当に椿の助けにもなりたいと思っていた。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:オカルト・ホラー,
 


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